花暦句会報:若草(平成30年6月9日)

若草句会(中目黒会議室)
兼題「蝸牛」、席題「青」 

高点4句
黒糖に残る潮味沖縄忌        針谷 栄子
かき氷右脳左脳に雷走る       針谷 栄子
八十路なほ夢見る自由青葡萄     加藤 弥子
湿原は山気のるつぼ水芭蕉      加藤 弥子

演武する女子の一列夏祭       廣田 健二
肩書も名刺もなくて更衣       岡戸 良一
マグマ噴き病める地球や花柘榴    坪井 信子
ばらの棘薄紅に雨の午後       石田 政江
灸花咲くや余生といふ気儘      加藤 弥子
月光へ角を向けをり蝸牛       針谷 栄子
黒塀に白く過去引くなめくじり    新井 洋子
緑陰に「ロバのパン屋」を待つ子かな 森永 則子
蝸牛大き葉の上の鎮座かな      神戸 康夫

(清記順)

一口鑑賞八十路なほ夢見る自由青葡萄」〜弥子さんの句。「青葡萄」は熟する前の小さくて堅いぶどう。若さの象徴と言っていい。しかし、作者は「80代になってもまだ夢見る自由はあるのよ」と強がっている。いや失礼、決して強がりなどではない。平均寿命の伸びにより、80代だからこそ見られる夢があってもいいはずだ。前向きに俳句を詠んでいる限り、夢は持ちたいし、叶うものだと信じたい。「月光へ角を向けをり蝸牛」〜栄子さんの句。月光も蝸牛も古今東西、俳人が好む題材。それだけに類想句はあるかもしれないが、角が月に向かって伸びていくという把握が何だか懐かしい。蝸牛の角を飽きずに観察した子どもの頃を思い出す。そういえば、近年、蝸牛が少なくなったように思うのは気のせいだろうか。(潔)
 [ 2018/06/10 22:55 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:連雀(平成30年6月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「梅雨」

高点5句
いつよりか婚期自由に花南瓜   中島 節子
梅雨茸やグリム童話の小人たち  加藤 弥子
ポスターの青き地球やトマト園  根本 莫生
青梅雨や自問自答の独り言    束田 央枝
万緑や生成り木綿のバッグ背に  向田 紀子

雷鳴に途切れし話戻しけり    中島 節子
覚えある声の主や夏帽子     向田 紀子
遠慮なく生ゆ十薬の住み心地   束田 央枝
町騒を子守唄とし星涼し     飯田 誠子
梅雨晴間地蔵の背の半乾き    田崎 悦子
山の堂に火災報知器五月闇    田村 君枝
太宰忌や割りし卵に血の走り   加藤 弥子
老いては子に従うべきか茄子の花 進藤 龍子
上水の緑いや濃き桜桃忌     根本 莫生
誘蛾灯青し一人の夜行バス    松成 英子
パラボラに鳩の集まる電波の日  坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞ポスターの青き地球やトマト園」〜莫生さんの句。トマト園に貼られたポスター。環境緑化か、自然農法推進などの広告だろうか。青く、水々しい地球の写真が大きくプリントされている図柄が目に浮かぶ。作者は改めて地球の美しさに感動すると同時に、この星の未来に思いをはせている。真っ赤に熟れたトマトに囲まれて詠んだ一句。「老いては子に従うべきか茄子の花」〜龍子さんの句。老いても子には迷惑をかけずに暮らしたい、と誰しも思うことだろう。しかし病気になったり、一人暮らしで心細くなったりすれば、なかなかそうは言ってもいられない。薄紫色で何とも味わい深い「茄子の花」。この季語が効いている。作者は人生を振り返りながら自問自答している。(潔)
 [ 2018/06/09 09:39 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:東陽(平成30年5月26日)

東陽句会(江東文化センター)

席題「新茶」「梅雨に入る」

高点4句
日のしづく払ひて畳む白日傘   新井 洋子
大茶釜据ゑて新茶の幟立つ    野村えつ子
冷奴箸の力の抜きどころ     新井 洋子
初鰹海鳴り添へて宅急便     安住 正子

腰痛を年のせいとし走り梅雨   堤  靖子
緑陰の入り口を占め献血車    野村えつ子
魚棚の皿をはみ出す焼穴子    斎田 文子
デッキ夏気分はハワイ航路へと  新井 洋子
摩崖仏の黒子のやうに油蝉    浅野 照子
新茶汲む妻の指南のそのままに  岡戸 良一
新茶売る法被姿のループタイ   安住 正子

(清記順)

一口鑑賞大茶釜据ゑて新茶の幟立つ」〜えつ子さんの句。一読して初夏の気持ち良い景が目に浮かぶ。お茶の専門店の店先に据えた大茶釜。湯気が立ち、お茶の香りも周囲に漂う。幟の「新茶」の文字は季語そのものだ。席題でとっさに詠んだのだろうが、記憶の中にある映像がすくっと立ち上がったのではないか。日頃から物事をよく見ている俳人ならではの一句。「新茶汲む妻の指南のそのままに」〜良一さんの句も席題で詠まれた。奥様に言われた通りにお茶を煎れている自分におかしみを感じている。「新茶売る法被姿のループタイ」〜正子さんの句は「ループタイ」に焦点が定まっている。題詠によって俳句力は磨かれる。(潔)
 [ 2018/05/27 10:44 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:すみだ(平成30年5月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点4句
青葉木菟ほろほろと月押し上げる    加藤 弥子
今年竹茶室へ流る黙の風        岡田須賀子
深呼吸青葉の海に身をひたし      工藤 綾子
四股を踏む長寿体操朝ぐもり      貝塚 光子

離陸いま茅花流しの滑走路       岡崎由美子
名園にまぎれ込みたる蛇いちご     高橋 郁子
鮎釣の流れに杭のごと立てり      加藤 弥子
青嵐鐘楼に猫うづくまり        岡田須賀子
足止める赤き宝石夏の茱萸       岡戸 良一
よそゆきを普段着として更衣      工藤 綾子
オリーブの花咲く風のカフェテラス   長澤 充子
場所入りのピンクの浴衣役力士     貝塚 光子

(清記順)

一口鑑賞よそゆきを普段着として更衣」〜綾子さんの句。句意は明瞭だ。更衣を機に、昨年まではよそゆきにしていた服を普段着に変えたという。それだけのことしか言っていないのだが、そう決心するまでには心の葛藤があったのに違いない。よそゆきの服にはさまざまな思い出もあるだろう。普段着に変えると決めた瞬間の気持ちはどんなだっただろう。読み手があれこれ想像するのは、誰しも同じような経験があるからだ。余計なことを言わず、読み手に想像させるのが俳句。(潔)
 [ 2018/05/26 09:04 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:若草(平成30年5月12日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「新樹」、席題「友」

高点3句
弓を引く友の目力新樹光         針谷 栄子
万緑といふうつし世に浸りをり      加藤 弥子
使ひかけの口紅棚に沙緻忌かな      石田 政江

午後の薔薇動かぬ刻の中にあり      廣田 健二
つややかに新樹の応ふ灯をともす     加藤 弥子
復興の力をつなぐ祭笛          岡戸 良一
沙緻の碑に余花のひとひら幸あらば    石田 政江
クレーンの五月雨雲を突く構へ      坪井 信子
オムライスのハートケチャップバードデー  新井 洋子
蜜豆の匙のひかりも沙緻忌かな      針谷 栄子

(清記順)

一口鑑賞復興の力をつなぐ祭笛」〜良一さんの句。東日本大震災の被災地は復興創生期にある。道のりは長いが、多くの地域でさまざまな祭りが復活している。もともと夏の祭りは農作物の疫病退治、風水害除けを祈願するために行われてきた。被災地の祭りは人々を集め、復興の力をつないでいく。この句は、「祭笛」が効いている。「オムライスのハートケチャップバードデー」〜洋子さんの句。「の」以外は全てカタカナ。もちろん意識して並べたのだろう。「ハート」と「バード」の語感が楽しい。何でオムライス?と思ったが、よくよく考えてみると、鶏の卵がなければ作れない。ハートのマークに愛鳥の気持ちが込められている。(潔)
 [ 2018/05/19 12:31 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:20周年・沙緻忌の集い(平成30年5月6日)

花暦20周年・沙緻忌の集い句会(主婦会館プラザエフ「スイセンの間」)

【天】
はつ夏の波追ふ砂の光りけり    岡崎由美子

一口鑑賞 初夏の砂浜。打ち寄せた波が引いていく。寄せては返す波を作者はただじっと見つめている。光っているのは波だけではない、砂も光っている。砂は波にさらわれるのではなく、波を追っている。この句は「波追ふ砂」という把握が見事だ。単純写生にとどまらず、季語と響き合って軽い躍動感が生まれている。

【地】
薔薇ひらく刻のしづけさ地の祈り  加藤 弥子

一口鑑賞 早朝だろうか、作者は物音一つしない静けさの中にいる。今まさに薔薇が開くときだと感じながら、あることに気づく。それは薔薇が得体の知れない力によって咲こうとしているということ。それを「地の祈り」と言い止めたときに一句が成った。静けさは地の祈りであり、地の祈りによって薔薇は咲くのである。

【人】
幸せは手の鳴る方へチューリップ  坪井 信子

一口鑑賞 この句は「目隠し鬼」という子どもの遊びが下敷きになっている。同時に「幸せなら手をたたこう」という歌があるように、手をたたく行為に何か特別な意味を見いだしている。「幸せは手の鳴る方へやってくる」。そんなふうに思えた頃の象徴として「チューリップ」は作者の心にいつも咲いているのではないか。

【高点4句】
入院の幹事に届け花菜風      森永 則子
墨東に帰雁の空の残りけり     野村えつ子
読み返す師からの朱筆聖五月    吉崎 陽子
ジャム煮込む甘夏好きの師の忌来る 長澤 充子


【注目10句】
千年の時空を超えて百千鳥     市原 久義
大川の遠き橋見え風五月      岡戸 良一
竜天に鏝絵の竜は軒下に      松成 英子
丁寧に生くるは難く弥生尽     相澤 秋生
終章なく暦重ねてあたたかし    安住 正子
老桜の洞に木霊の闇のあり     新井 洋子
師の句碑に希望の灯り凍てつく手  石田 政江
奥能登の岬に仰ぐ遅桜       貝塚 光子
永代橋も勝どき橋も鳥ぐもり    堤  靖子
ひらがなに混じるカタカナ春の詩  廣田 健二

 [ 2018/05/13 16:24 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:連雀(平成30年5月2日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「薄暑」

高点3句
下校児の何にふざけて柿若葉     中島 節子
細りたる玉川上水桜桃忌       松成 英子
八十八夜夜風の甘くなりにけり    加藤 弥子

アルプスの稜線映す代田かな     横山 靖子
暗がりに群れて金蘭明りかな     春川 園子
一門の集ふ師の忌や夏立ちぬ     束田 央枝
町川の瀬音ひろがる薄暑かな     田崎 悦子
牛の居ぬ牛小屋いまも逢長く     進藤 龍子
京劇の歌のもれくる牡丹かな     松成 英子
緑立つ園の要の女松         田村 君枝
風力発電の塔痩尾根に鳥曇      向田 紀子
窓丸きカプセルホテル愛鳥日     加藤 弥子
青空のありて動かぬ鯉のぼり     中島 節子
ベビーカー・杖・はと・交差点薄暑  坪井 信子
花粉症病院バス停人溜り       根本 莫生

(清記順)

一口鑑賞下校児の何にふざけて柿若葉」〜節子さんの句。下校する子どもたちがふざけ合っている。何が面白いのかは分からないが、楽しそうな姿や声は昔から変わらない。艶やかでまぶしい「柿若葉」との取り合わせにより、子どもたちの生き生きとした様子が見えてくる。「ベビーカー・杖・はと・交差点薄暑」〜信子さんの句。初夏の交差点の風景をたった17音で巧みにスケッチした。若いお母さんが押す「ベビーカー」の赤ちゃん。「杖」をつく紳士あるいは老婆。人々をよける「はと」。作者は何も言っていないのに、読み手の目には交差点の映像が自在に広がる。少し汗ばみながら、軽快に動ける「薄暑」の街。季語への信頼が生み出した一句。(潔)
(清記順)
 [ 2018/05/03 11:04 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:東陽(平成30年4月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「燕」「夏近し」

高点5句
時折は白き胸張る燕の子       安住 正子
一山の彩ふくらます山の藤      安住 正子
遅桜峡の奈落をバスの縫ふ      野村えつ子
ふんぎりのつかずしまひに残る鴨   野村えつ子
妻入の家並黒々軒燕         堤  靖子

遠山は白を残せり藍微塵       岡戸 良一
緑さす倶利伽羅峠軍議石       堤  靖子
ベビーカーを留める堤の若葉風    斎田 文子
味噌和への小鉢に春を惜しみけり   新井 洋子
街路樹の爽立つ揺れや夏隣      安住 正子
夢うつつ眠れぬうつつ花疲れ     貝塚 光子
吊橋の上下たくみに夏燕       浅野 照子
ビル街に育つ叢林燕来る       野村えつ子
岩つばめ急降下して日本海      長澤 充子

(清記順)

一口鑑賞時折は白き胸張る燕の子」〜正子さんの句。上五、中七の把握が素晴らしい。自宅の軒下だろうか。身近にある燕の巣をよく観察しているなと思う。「燕の子」は孵化から20日ほどで巣立ちを始める。成長した雛が大人びて見えた瞬間を、「時折は白き胸張る」と捉えたのである。燕に対する親しみに溢れている。「ふんぎりのつかずしまひに残る鴨」〜えつ子さんの句。こちらは「残る鴨」になぞらえて自分自身を詠んでいる。羽ばたこうと思っているのに、踏ん切りがつかないまま、また1年が過ぎていく。そんな思いだろうか。諧謔味を帯びた一句。(潔)
 [ 2018/04/29 11:02 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:すみだ(平成30年4月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
擂粉木の音まろやかに暮の春    岡崎由美子
日がみがき雨が洗ひし新樹かな   工藤 綾子
小手毬の風に弾むよ隠れんぼ    貝塚 光子

ステンドグラス填めし新駅燕来る  加藤 弥子
啄木忌雨の砂場の忘れもの     岡戸 良一
きちきちと絞る手拭昭和の日    岡崎由美子
めまとひや堂一隅に女人堂     高橋 郁子
城跡の夜空明るく椎若葉      貝塚 光子
矢車の喜び廻る峡の空       工藤 綾子
春宵や祢宜の爪弾く古代琴     桑原さかえ
師の色紙遺さる館新樹光      長澤 充子
(清記順)

一口鑑賞小手毬の風に弾むよ隠れんぼ」〜光子さんの句。小手毬は垂れ下がった枝に、白い五弁の花が球形に集まって咲く。風が吹くと、まるで鞠が弾んでいるように見える。この句は上五と中七だけではごく当たり前の景だが、下五の「隠れんぼ」で一気に世界が広がった。都会の公園だろうか。隠れんぼをして遊ぶ子どもたちの生き生きとした姿が目に浮かぶ。「春宵や祢宜の爪弾く古代琴」〜さかえさんの句。「祢宜(ねぎ)」は神職の総称。厳かな儀式の最中だろうか。古代琴の音色を想像するだけで歴史的なロマンが感じられる。「春宵」という情感に満ちた時間帯に聴けばなおさらだろう。(潔)
 [ 2018/04/28 11:08 ]  未分類 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:若草(平成30年4月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「春深し」 席題「食一切」

高点4句
蒼穹の針の穴より雲雀落つ        新井 洋子
春闌くや辞書の重さと麩の軽さ      坪井 信子
ローランサンの水色が好き春ショール   森永 則子
田楽や小酌といふ句座帰り        岡戸 良一

春陰や友の不在の句座にあり       森永 則子
市役所へ転入届初燕           針谷 栄子
楤の芽の天ぷら君の誕生日        飯田 誠子
校了のほつと息つぐ暮の春        岡戸 良一
オルゴールゆつくりと止み春深し     加藤 弥子
のどけしやまなじりゆるむいしぼとけ   坪井 信子
筍飯にぎりて厚き大きな手        石田 政江
眉月の野にひと本の滝桜         新井 洋子

(清記順)

一口鑑賞蒼穹の針の穴より雲雀落つ」〜洋子さんの句。雲雀は空高く昇ることで縄張りを主張しているという。そこから一転して急降下するのが「落雲雀」。作者は、青空に舞い上がった雲雀がまるで針の穴のように小さな点になった瞬間、急降下するところを見たのである。写生の醍醐味を感じさせる一句。「ローランサンの水色が好き春ショール」〜則子さんの句。マリー・ローランサンはフランスの女性画家。1883年生まれ。1920年代に水色やピンクなどの淡いパステルカラーを用いた少女像が人気を博した。この句は、春の到来を喜ぶ作者の自画像と言っていい。ふわりと首に巻いた水色の春ショールはなんともおしゃれで清々しい。(潔)
 [ 2018/04/16 22:46 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)
プロフィール

花暦

Author:花暦
『花暦』俳句会のWeb版。
師系・舘岡沙緻、富安風生、岸風三樓。
「人と自然の内に有季定型、写生第一、個性を詠う」をモットーに活動しています。

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