花暦句会報:若草(平成30年7月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「心太」、席題「還」

高点3句
待ち人あり句座ありけさの蟬時雨   山本  潔
幼子のフォークに掛かる心太     森永 則子
七夕や転勤地よりお還りなさい    加藤 弥子

知らぬ間になくなるのよね梅漬は   山本  潔
衒ひなく愛想もなくて心太      新井 洋子
毛虫焼く前世の命に還れよと     坪井 信子
「この路地は抜けられません」竹床几 加藤 弥子
あやかしの手織りか烏瓜の花     岡戸 良一
突然の昼の花火の虚ろかな      森永 則子
梅漬けて干される出番待つばかり   石田 政江
返還の遠き日思ふ沖縄忌       廣田 健二

(清記順)

一口鑑賞幼子のフォークに掛かる心太」〜則子さんの句。幼い子が心太(ところてん)を食べている。フォークといっても金属製ではなく、プラスチックでできた丸みのあるものだろう。覚束ない手つきで心太を口へ運ぶのはなかなか難しい。お母さんが手伝ってくれたのかもしれない。フォークに心太がかかったことを喜ぶ子の姿が目に浮かぶようだ。作者の優しい眼差しが感じられる。「毛虫焼く前世の命に還れよと」〜信子さんの句。席題「還」による即吟。句意は明解だ。焼かれる毛虫に対して祈りを捧げている。あらゆる事物や現象に魂が宿るという「アニミズム」に通じる一句。今年2月に他界した金子兜太は「生きもの感覚」の重要性を解いた。(潔)
 [ 2018/07/15 08:45 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:連雀(平成30年7月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「汗」

高点2句
朝食は婿の手料理夏大根       進藤 龍子
初蝉の二タ声三こゑ幼の忌       加藤 弥子

紫外線避け人を避けサングラス    塚田 央枝
腱鞘炎やうやく癒へて瓜刻む     進藤 龍子
夏帽子風をふはりと喜寿祝ふ     飯田 誠子
烏瓜一夜の花の白く裂け       松成 英子
ねぶた笠目深に我も跳ねし夜     横山 靖子
玫瑰や海見て心立て直す       岡崎由美子
大好きなひまわり咲いて児の忌来る  加藤 弥子
宅配の男汗拭く昇降機        中島 節子
上水の一直線の青葉闇        向田 紀子
木工所の隅南天の花の屑       田村 君枝
青柿の短き命ころげ落ち       田崎 悦子
熱中症てふ病名のもとに臥す     根本 莫生
風鈴の舌(ぜつ)を捉へし夜風かな  坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞紫外線避け人を避けサングラス」〜央枝さんの句。一読して句意は明解だが、ちょっと考えさせられる。この句のサングラスは「紫外線を避(よ)ける」「人を避(さ)ける」という二つの役割を持っている。前者が物理的な理由なのに対し、後者は明らかに心象的な意味合いが強い。作者の意図は後者の方にあるのだろう。さらりと詠みながら、心象を込めた詠み方にドキリとさせられる。「烏瓜一夜の花の白く裂け」〜英子さんの句。そういえば烏瓜の花を見たことがない。調べてみると、「屈託のない赤い実からは想像もつかない、レースのような繊細さをもった白い花」(「日本の歳時記」)とある。作者は、この花をしっかりと見たのであろう。夕方から夜にかけて咲く神秘の白い花。是非とも見てみたい。(潔)
 [ 2018/07/07 11:02 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:すみだ(平成30年6月27日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
くさぐさのいのちのなかの初蛍    加藤 弥子
羽抜鶏己の影を啄めり        加藤 弥子

夕さりの隠沼群るる蚊食鳥      高橋 郁子
大道芸投銭光る夏の雲        工藤 綾子
朝涼や船荷のとどく湖の宿      貝塚 光子
物置の隅にグローブ父の日来     岡崎由美子
礼文島に信号一つ敦盛草       桑原さかえ
峡深く早瀬に和して夕河鹿      長澤 充子
俎の傷まで乾く梅雨晴間       加藤 弥子
篁を風のさわがす旱梅雨       岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞物置の隅にグローブ父の日来」〜由美子さんの句。使い古したまま表面も硬くガサガサになったグローブ。もう使われることはないが、父親とのキャッチボールの思い出が詰まっているのだろう。決して捨てることのできないものとして、グローブは物置の隅に存在しているのである。思い出の中の父親に感謝して詠んだ「父の日」の一句。「峡深く早瀬に和して夕河鹿」〜充子さんの句。河鹿は山地の渓流や森などに生息している蛙。美しい鳴声が牡鹿に似ていることから、その名が付いたという。この句は旅吟だろうか。流れの速い浅瀬と河鹿の声を一緒に聴きながら、心休まるひとときを過ごしたに違いない。(潔)
 [ 2018/06/30 13:46 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:東陽(平成30年6月23日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「夏至」「瀬」

高点3句
瀬をのぼる容に鮎の焼かれをり   安住 正子
神木の一千年の木下闇       安住 正子
十薬や貸家の紙の新しく      堤  靖子

アメ横やケバブの匂ふ露地の朱夏  安住 正子
路地裏は昔のままや風涼し     斎田 文子
眼下の灯涼し天空レストラン    新井 洋子
夏落葉峡の早瀬に呑み込まる    岡戸 良一
水月湖のきららきららと夕涼し   貝塚 光子
祭半纏うしろ姿の男振り      飯田 誠子
瀬波立ち山夕立の来たりけり    野村えつ子
水割りの琥珀のグラス夏至の宵   長澤 充子
黙々と釣餌まるめる日焼の手    浅野 照子
老鶯や逢瀬たのしき芭蕉庵     堤  靖子

(清記順)

一口鑑賞十薬や貸家の紙の新しく」〜靖子さんの句。玄関先に十薬が群生する家に貼られた「貸家」の紙。その紙が新しいと見て取ったところがこの句のお手柄。読み手も想像力を掻き立てられる。最近まで人が住んでいたのかもしれない。貸家にせざるを得なくなった事情はさまざまだろうが、そんなことにはおかまいなしに十薬は真っ白い花を咲かせている。空き家問題が深刻化している現代。「十薬や」という詠嘆にこの国の未来への憂いも感じられる。「黙々と釣餌まるめる日焼の手」〜照子さんの句。釣堀での一コマだろうか。だんご餌を丸める人の様子に見入っているうちに、「日焼の手」に目が止まった。もしも餌がミミズとかゴカイだったら、そうはいかなかったかもしれない。(潔)
 [ 2018/06/30 13:00 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:若草(平成30年6月9日)

若草句会(中目黒会議室)
兼題「蝸牛」、席題「青」 

高点4句
黒糖に残る潮味沖縄忌        針谷 栄子
かき氷右脳左脳に雷走る       針谷 栄子
八十路なほ夢見る自由青葡萄     加藤 弥子
湿原は山気のるつぼ水芭蕉      加藤 弥子

演武する女子の一列夏祭       廣田 健二
肩書も名刺もなくて更衣       岡戸 良一
マグマ噴き病める地球や花柘榴    坪井 信子
ばらの棘薄紅に雨の午後       石田 政江
灸花咲くや余生といふ気儘      加藤 弥子
月光へ角を向けをり蝸牛       針谷 栄子
黒塀に白く過去引くなめくじり    新井 洋子
緑陰に「ロバのパン屋」を待つ子かな 森永 則子
蝸牛大き葉の上の鎮座かな      神戸 康夫

(清記順)

一口鑑賞八十路なほ夢見る自由青葡萄」〜弥子さんの句。「青葡萄」は熟する前の小さくて堅いぶどう。若さの象徴と言っていい。しかし、作者は「80代になってもまだ夢見る自由はあるのよ」と強がっている。いや失礼、決して強がりなどではない。平均寿命の伸びにより、80代だからこそ見られる夢があってもいいはずだ。前向きに俳句を詠んでいる限り、夢は持ちたいし、叶うものだと信じたい。「月光へ角を向けをり蝸牛」〜栄子さんの句。月光も蝸牛も古今東西、俳人が好む題材。それだけに類想句はあるかもしれないが、角が月に向かって伸びていくという把握が何だか懐かしい。蝸牛の角を飽きずに観察した子どもの頃を思い出す。そういえば、近年、蝸牛が少なくなったように思うのは気のせいだろうか。(潔)
 [ 2018/06/10 22:55 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:連雀(平成30年6月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「梅雨」

高点5句
いつよりか婚期自由に花南瓜   中島 節子
梅雨茸やグリム童話の小人たち  加藤 弥子
ポスターの青き地球やトマト園  根本 莫生
青梅雨や自問自答の独り言    束田 央枝
万緑や生成り木綿のバッグ背に  向田 紀子

雷鳴に途切れし話戻しけり    中島 節子
覚えある声の主や夏帽子     向田 紀子
遠慮なく生ゆ十薬の住み心地   束田 央枝
町騒を子守唄とし星涼し     飯田 誠子
梅雨晴間地蔵の背の半乾き    田崎 悦子
山の堂に火災報知器五月闇    田村 君枝
太宰忌や割りし卵に血の走り   加藤 弥子
老いては子に従うべきか茄子の花 進藤 龍子
上水の緑いや濃き桜桃忌     根本 莫生
誘蛾灯青し一人の夜行バス    松成 英子
パラボラに鳩の集まる電波の日  坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞ポスターの青き地球やトマト園」〜莫生さんの句。トマト園に貼られたポスター。環境緑化か、自然農法推進などの広告だろうか。青く、水々しい地球の写真が大きくプリントされている図柄が目に浮かぶ。作者は改めて地球の美しさに感動すると同時に、この星の未来に思いをはせている。真っ赤に熟れたトマトに囲まれて詠んだ一句。「老いては子に従うべきか茄子の花」〜龍子さんの句。老いても子には迷惑をかけずに暮らしたい、と誰しも思うことだろう。しかし病気になったり、一人暮らしで心細くなったりすれば、なかなかそうは言ってもいられない。薄紫色で何とも味わい深い「茄子の花」。この季語が効いている。作者は人生を振り返りながら自問自答している。(潔)
 [ 2018/06/09 09:39 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:東陽(平成30年5月26日)

東陽句会(江東文化センター)

席題「新茶」「梅雨に入る」

高点4句
日のしづく払ひて畳む白日傘   新井 洋子
大茶釜据ゑて新茶の幟立つ    野村えつ子
冷奴箸の力の抜きどころ     新井 洋子
初鰹海鳴り添へて宅急便     安住 正子

腰痛を年のせいとし走り梅雨   堤  靖子
緑陰の入り口を占め献血車    野村えつ子
魚棚の皿をはみ出す焼穴子    斎田 文子
デッキ夏気分はハワイ航路へと  新井 洋子
摩崖仏の黒子のやうに油蝉    浅野 照子
新茶汲む妻の指南のそのままに  岡戸 良一
新茶売る法被姿のループタイ   安住 正子

(清記順)

一口鑑賞大茶釜据ゑて新茶の幟立つ」〜えつ子さんの句。一読して初夏の気持ち良い景が目に浮かぶ。お茶の専門店の店先に据えた大茶釜。湯気が立ち、お茶の香りも周囲に漂う。幟の「新茶」の文字は季語そのものだ。席題でとっさに詠んだのだろうが、記憶の中にある映像がすくっと立ち上がったのではないか。日頃から物事をよく見ている俳人ならではの一句。「新茶汲む妻の指南のそのままに」〜良一さんの句も席題で詠まれた。奥様に言われた通りにお茶を煎れている自分におかしみを感じている。「新茶売る法被姿のループタイ」〜正子さんの句は「ループタイ」に焦点が定まっている。題詠によって俳句力は磨かれる。(潔)
 [ 2018/05/27 10:44 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:すみだ(平成30年5月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点4句
青葉木菟ほろほろと月押し上げる    加藤 弥子
今年竹茶室へ流る黙の風        岡田須賀子
深呼吸青葉の海に身をひたし      工藤 綾子
四股を踏む長寿体操朝ぐもり      貝塚 光子

離陸いま茅花流しの滑走路       岡崎由美子
名園にまぎれ込みたる蛇いちご     高橋 郁子
鮎釣の流れに杭のごと立てり      加藤 弥子
青嵐鐘楼に猫うづくまり        岡田須賀子
足止める赤き宝石夏の茱萸       岡戸 良一
よそゆきを普段着として更衣      工藤 綾子
オリーブの花咲く風のカフェテラス   長澤 充子
場所入りのピンクの浴衣役力士     貝塚 光子

(清記順)

一口鑑賞よそゆきを普段着として更衣」〜綾子さんの句。句意は明瞭だ。更衣を機に、昨年まではよそゆきにしていた服を普段着に変えたという。それだけのことしか言っていないのだが、そう決心するまでには心の葛藤があったのに違いない。よそゆきの服にはさまざまな思い出もあるだろう。普段着に変えると決めた瞬間の気持ちはどんなだっただろう。読み手があれこれ想像するのは、誰しも同じような経験があるからだ。余計なことを言わず、読み手に想像させるのが俳句。(潔)
 [ 2018/05/26 09:04 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:若草(平成30年5月12日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「新樹」、席題「友」

高点3句
弓を引く友の目力新樹光         針谷 栄子
万緑といふうつし世に浸りをり      加藤 弥子
使ひかけの口紅棚に沙緻忌かな      石田 政江

午後の薔薇動かぬ刻の中にあり      廣田 健二
つややかに新樹の応ふ灯をともす     加藤 弥子
復興の力をつなぐ祭笛          岡戸 良一
沙緻の碑に余花のひとひら幸あらば    石田 政江
クレーンの五月雨雲を突く構へ      坪井 信子
オムライスのハートケチャップバードデー  新井 洋子
蜜豆の匙のひかりも沙緻忌かな      針谷 栄子

(清記順)

一口鑑賞復興の力をつなぐ祭笛」〜良一さんの句。東日本大震災の被災地は復興創生期にある。道のりは長いが、多くの地域でさまざまな祭りが復活している。もともと夏の祭りは農作物の疫病退治、風水害除けを祈願するために行われてきた。被災地の祭りは人々を集め、復興の力をつないでいく。この句は、「祭笛」が効いている。「オムライスのハートケチャップバードデー」〜洋子さんの句。「の」以外は全てカタカナ。もちろん意識して並べたのだろう。「ハート」と「バード」の語感が楽しい。何でオムライス?と思ったが、よくよく考えてみると、鶏の卵がなければ作れない。ハートのマークに愛鳥の気持ちが込められている。(潔)
 [ 2018/05/19 12:31 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)

花暦句会報:20周年・沙緻忌の集い(平成30年5月6日)

花暦20周年・沙緻忌の集い句会(主婦会館プラザエフ「スイセンの間」)

【天】
はつ夏の波追ふ砂の光りけり    岡崎由美子

一口鑑賞 初夏の砂浜。打ち寄せた波が引いていく。寄せては返す波を作者はただじっと見つめている。光っているのは波だけではない、砂も光っている。砂は波にさらわれるのではなく、波を追っている。この句は「波追ふ砂」という把握が見事だ。単純写生にとどまらず、季語と響き合って軽い躍動感が生まれている。

【地】
薔薇ひらく刻のしづけさ地の祈り  加藤 弥子

一口鑑賞 早朝だろうか、作者は物音一つしない静けさの中にいる。今まさに薔薇が開くときだと感じながら、あることに気づく。それは薔薇が得体の知れない力によって咲こうとしているということ。それを「地の祈り」と言い止めたときに一句が成った。静けさは地の祈りであり、地の祈りによって薔薇は咲くのである。

【人】
幸せは手の鳴る方へチューリップ  坪井 信子

一口鑑賞 この句は「目隠し鬼」という子どもの遊びが下敷きになっている。同時に「幸せなら手をたたこう」という歌があるように、手をたたく行為に何か特別な意味を見いだしている。「幸せは手の鳴る方へやってくる」。そんなふうに思えた頃の象徴として「チューリップ」は作者の心にいつも咲いているのではないか。

【高点4句】
入院の幹事に届け花菜風      森永 則子
墨東に帰雁の空の残りけり     野村えつ子
読み返す師からの朱筆聖五月    吉崎 陽子
ジャム煮込む甘夏好きの師の忌来る 長澤 充子


【注目10句】
千年の時空を超えて百千鳥     市原 久義
大川の遠き橋見え風五月      岡戸 良一
竜天に鏝絵の竜は軒下に      松成 英子
丁寧に生くるは難く弥生尽     相澤 秋生
終章なく暦重ねてあたたかし    安住 正子
老桜の洞に木霊の闇のあり     新井 洋子
師の句碑に希望の灯り凍てつく手  石田 政江
奥能登の岬に仰ぐ遅桜       貝塚 光子
永代橋も勝どき橋も鳥ぐもり    堤  靖子
ひらがなに混じるカタカナ春の詩  廣田 健二

 [ 2018/05/13 16:24 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)
プロフィール

花暦

Author:花暦
『花暦』俳句会のWeb版。
師系・舘岡沙緻、富安風生、岸風三樓。
「人と自然の内に有季定型、写生第一、個性を詠う」をモットーに活動しています。

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