『花暦』ダイジェスト/平成27年2月号

暦日抄   舘岡沙緻

春牡丹となるべく蕾円かなる
束になり溢るるばかり野水仙
傷む躬の白水仙に何託す
遠近に日溜り捉へ野水仙
救急入院大つごもりの白ベッド


〔Web版特別鑑賞〕冬も終わりが近づくと、辺りが明るくなり、寒風の中にも春の気配を感じるようになる。「日脚伸ぶ」や「春隣」といった季語が自然と口をついて出てきて、それだけでも嬉しくなってくる。季語の力とは、こういうものかと思う。今月の暦日抄では、春を待つ花の中でもポピュラーな「水仙」を詠んだ3句が並んでいる。広辞苑によれば、水仙は地中海原産で、シルクロードを通って東アジアに渡来した。
 <束になり溢るるばかり野水仙>。水仙が群生している。「溢るるばかり」という措辞により、強い風に吹かれ、水仙が束になって大きく揺れる映像が浮かんでくる。春を待つ中にも荒々しく吹き抜ける風はまだ冷たい。主宰には「いつかもこんな玻璃越し風の野水仙」もある。
 <傷む躬の白水仙に何託す>は心象句。長年、肝臓癌と戦ってきた身体をいたわりながら、清らかな水仙の白い花に何を託そうかと自問自答している。
 <遠近に日溜り捉へ野水仙>。前の2句に比べると、この野水仙は穏やかな印象を受ける。風が止み、遠くにも近くにも日が差しているからである。俳句は十七音という極端に短い型式に束縛される。散文とは異なり、表現は自ずと象徴的、暗示的にならざるを得ない。「日溜り」は日がよく差して暖かい場所。春の温もりを、いち早く見つけた喜びを表しているのではないだろうか。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
山茶花や石工掃き寄す石の屑(加藤弥子)
貫禄のロシア製なる毛皮帽(根本莫生)
橋渡りきる間に止みて加賀しぐれ(野村えつ子)
薄霜や石で止め置く荒筵(春川園子)
底冷す少年立像美術館(岡崎由美子)
改札口の先に時雨の街明り(堤 靖子)
一渓の音に息づく冬桜(坪井信子)
哀しめば日暮の色に枇杷の花(高久智恵江)
侘助やひとり稽古の空茶碗(針谷栄子)
ミニカーの床の傷跡聖樹の灯(森永則子)
神無月なんでもない日のお赤飯(安住正子)
久に乗る都電の揺れや冬日和(高橋郁子)
遠くへは行けぬ同士のおでん酒(長野克俊)
ポインセチア店ごと燃えてゐるやうな(吉崎陽子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


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〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

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 [ 2015/02/01 13:28 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)
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花暦

Author:花暦
『花暦』俳句会のWeb版。
師系・舘岡沙緻、富安風生、岸風三樓。
「人と自然の内に有季定型、写生第一、個性を詠う」をモットーに活動しています。

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