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『花暦』ダイジェスト 平成27年5月号

暦日抄   舘岡沙緻

  妙成寺・涅槃図
等伯の涅槃図拝すありがたし
世話役にをみなは居らず涅槃絵図
涅槃絵に猫を探しぬ身を屈め
わが句碑に塔高々と涅槃西風
初蝶の風切る風を上下して
初蝶の近づく白さ花眼の躬


〔Web版特別鑑賞〕季語は時候や天文、動植物など自然の営みによって自ずと分類されるほか、日本人の生活や意識に溶け込んだ宗教上の行事も重要な位置を占めている。今月の暦日抄には「涅槃会」の句が並んだ。釈迦入滅の日(旧暦2月15日)の法要で、太陽暦では2月15日か月遅れの3月15日ごろに行われるから春の季語。各地の寺は釈迦入滅の様子を描いた涅槃図(涅槃絵)を掲げて法要を行う。
 <等伯の涅槃図拝すありがたし>。主宰は昨年5月、石川県羽咋市の名刹・妙成寺に句碑を建立した。妙成寺は、桃山時代を代表する絵師・長谷川等伯が30歳のころ(室町後期)に描いた涅槃図を所蔵する。本物を目にした気持ちは「ありがたし」以外の何物でもなかったのだろう。
 涅槃図には、釈迦を中心に仏弟子や鳥獣などが精緻に描かれている。なぜか猫は描かれないことが多い。猫には仏教に対する信仰心がないためとか、木に掛かった釈迦の薬袋を取ろうとした鼠を猫が邪魔したためなど、諸説ある。しかし、等伯の涅槃図には猫が描かれているという。<涅槃絵に猫を探しぬ身を屈め>は、その猫を食い入るように探す様子が見えてくるようだ。
 <初蝶の風切る風を上下して>。主宰が暮らす本庄市は埼玉県の北西部に位置し、中山道では最大の宿場町として栄えたところ。東京の錦糸町から空気のいい街に移り、「初蝶」が目の前に現れた瞬間を捉えた。蝶の軌跡が風を上下真っ二つに分けたと感じたのである。<初蝶の近づく白さ花眼の躬>も初蝶がふいに現れた瞬間。「花眼」は酔眼または老眼。二句とも眼前の蝶を直感的かつ巧みに捉えた。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
夫婦雛飾りひとり居明るうす(加藤弥子)
卒寿吾祝はるる日の春袷(進藤龍子)
春の雨ひとりの暮しにもなれて(白崎千恵子)
地下地上階上バレンタインデー(根本莫生)
春泥や考古学者の古軍手(浅野照子)
新造船の就航祝し島うらら(池田まさを)
村中が日向や桃の花盛り(長谷川きよ子)
てのひらの長寿の相や菠薐草(針谷栄子)
山昏れて提灯点る花堤(田村君枝)
来客を待ちをり桜餅鉢に(小泉千代)
春塵や仁王の御眼修理中(橘 俳路)
サイフォンの音か出窓のヒヤシンス(岡田須賀子)
幼ナ子の頬の落ちさう桃の花(貝塚光子)
駅南口人の流れも春近し(新井由次)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
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プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。
師系:舘岡沙緻、岸風三樓、富安風生。
『花暦』は2019年夏季号で終刊。後継誌『艸(そう)』(2020年1月創刊)として再出発します。「艸」は「草」の本字であり、くさかんむりの原形です。二本の草が並んで生えているさまを描いた文字で、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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