『花暦』ダイジェスト 平成27年10月号

暦日抄   舘岡沙緻

詩人俊太郎夏木立杉木立
山荘の天井部屋の夏灯
餌台の傾ぎ山荘風は秋
汗かかぬ老のてのひら病み疲れ
昼の湯に病む身いたはる秋黴雨
台風さへ親し田舎暮らしの身
寂しめば枇杷の葉空へ秋を恋ふ


〔Web版特別鑑賞〕今月の「暦日抄」では、まず冒頭の句に親近感を覚えた。<詩人俊太郎夏木立杉木立>。詩人・谷川俊太郎は今年12月で84歳。主宰より一つ年下。『マザーグースのうた』『ピーナッツ』などの翻訳でも知られる。父親は哲学者の谷川徹三。個人的な思い出になるが、息子と娘が通っていた小学校の校歌の作詞者が谷川俊太郎さんだった。「教室は宇宙船 どこへだって行ける〜」。こんなフレーズで始まる校歌は斬新で、子どもたちにはもちろん、親たちにも親しまれた。小学校の統合で校名も校歌も変わることになったとき、我々は谷川さんを招き、作詞の背景などをうかがいながら一緒に合唱した。
 揚げ出し句は「詩人俊太郎」と主題を明示した後に「夏木立杉木立」と続く。「木立」のリフレインは軽妙なリズムを生んでいる。谷川さんは絵本制作や詩の朗読など今もなお精力的に活動している。生命力に溢れる詩人を讃える一句。
 <汗かかぬ老のてのひら病み疲れ><昼の湯に病む身いたはる秋黴雨>。夏から秋へ。いずれも句意は明解。病身の日常を、まるで日記に記録するように静かに詠んだ。季節の移り変わりを体感で捉えている。
 <寂しめば枇杷の葉空へ秋を恋ふ>。現在、主宰が住む埼玉県本庄市の家の庭には枇杷の木がある。ふと寂しさを感じた時に居間の窓から見える枇杷の葉。その先に広がる空に秋の気配を感じている。「秋を恋ふ」という措辞に実感が込められている。主宰には巡り来る一つ一つの季節が愛おしいに違いない。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
異国語を背後にしたる茅の輪かな(中島節子)
水馬のゴールは池の草のかげ(堤 靖子)
風向きの変はりて響く遠花火(向田紀子)
森揺らす風天牛の触角に(新井洋子)
昼顔や午後は気怠き水の音(坪井信子)
昂りを押へてをりぬ祭足袋(高久知恵江)
行者橋祇園白川夏柳(中村京子)
梅雨雲や町の鍛冶屋の鞴の火(飯田誠子)
出入自由の市民農園梅雨終る(森永則子)
泉汲む足場の石のぐらつきて(大野ひろし)
つき通す嘘の重たく遠花火(田中うめ)
炎天下球追ふ児等の逞しき(中村松歩)
教室の隅のオルガン終戦日(岡田須賀子)
くだり凪ぐ岬に白き岩畳(貝塚光子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
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 [ 2015/10/08 06:31 ]  俳句 | TB(0) | コメント(0)
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花暦

Author:花暦
『花暦』俳句会のWeb版。
師系・舘岡沙緻、富安風生、岸風三樓。
「人と自然の内に有季定型、写生第一、個性を詠う」をモットーに活動しています。

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