暦日抄 舘岡沙緻独活和へや予後の灯しの箸使ひ
薔薇日和生れ月なれど恙の身
薔薇冷えの雨のひと日の卓のペン
薔薇の雨昼を点して老いゆけり
生れ月の薔薇に人の訃重ねをり 悼句
杜若嫁がずひとり逝くことも
一日を臥すこと多き夏灯
泰山木は師の花病む身樹下にかな
枇杷は実に俳縁いまもありがたき
老ゆゑの思案歩きや青葉雨
老人ばかり目につく齢梅雨めきぬ
己が夏衣摑み歩むも術後の身
青蘆や堤近きに住みし頃
残鶯の一声力出しきれず
厳かに背筋伸ばさむ君子蘭 〔Web版限定鑑賞〕今月の暦日抄には「薔薇」の4句が並んでいる。「
薔薇日和生れ月なれど恙の身」「
薔薇冷えの雨のひと日の卓のペン」「
薔薇の雨昼を点して老いゆけり」「
生れ月の薔薇に人の訃重ねをり」。どれも味わい深い。バラ園のピンクの薔薇? 一輪挿しの黄色い薔薇? 鉢植えのミニ薔薇? 野生の白薔薇? いろいろな薔薇を想像してみる。主宰には「傘寿われ薔薇の百句を志す」(平成22年4月号)もある。癌を抱えながらも主宰の俳句への情熱、執念は決して衰えることがない。「
独活和へや予後の灯しの箸使ひ」は、退院後の身をいたわりつつ、生活している様子が目に浮かぶ。食卓を照らす灯りが切ない。「
泰山木は師の花病む身樹下にかな」は風三楼忌(7月2日)が念頭にある。風三楼師の「泰山木けふの高さの一花あぐ」「泰山木一花を朝の日に捧ぐ」などを私も愛唱している。「
杜若嫁がずひとり逝くことも」は悼句。句会の朝、知人の死を聞いた。句会場へ着くと、席題は「杜若」。とっさに、独身を通して亡くなった知人の、そこはかとない哀しみを杜若に託した。人生の無常を詠んだ一句。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄奥祖谷(いや)の少女のやうな山桜(浅野照子)
古書店にいつもの匂ひ昭和の日(野村えつ子)
雪解川大曲りして渦深き(相澤秋生)
春眠を咎める人のなきは淋し(堤 靖子)
大かたは知らぬ名参道植木市(中島節子)
光にも風にも背き残る鴨(坪井信子)
河口へと流れのままに花果つる(高久智恵江)
父母在さばセル着る頃や齢古り(秋山光枝)
水拭きの床の乾きや更衣(針谷栄子)
外は春日ビル密封の蛍光灯(松本涼子)
野に飽きし初蝶空に見失ふ(森永則子)
アメ横の横文字うすれ昭和の日(滝田ふみ子)
日陰ればセザンヌの色緑なる(山本 潔)
桜しべ掃く空き缶をころがして(田 澄夫)
花暦集から実をつけし梅の大樹の石を抱く(松川和子)
ゆつくり立ちゆつくり歩く青嵐(秋山みね)
散る花の白き斑まとふ常夜燈(白木正子)
青嵐かすかに灯る島あかり(鳰川宇多子)
着る捨てる着ると決めたる更衣(山室民子)
身にまとふ風愉しめば桜散る(小林聖子)
フィルムの最後の一枚夕桜(長谷川とみ)
スカイツリー日毎夜毎に見て倦きず(桑原さか枝)
カーネーション二束とどき妻の留守(土屋天心)
青田風苗さからはずふるへをり(吉田精一)
蔓薔薇の自由気ままに風を呼ぶ(吉崎陽子)
柏餅の香りたのしみ味噌好む(川本キヨ)
黒玉子茹でる湯けむり青嵐(福岡弘子)
青嵐雲を遠ざけスカイツリー(梅津雪江)
水墨画龍虎図屏風青嵐(梅林勝江)
■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。 会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【24年7月の活動予定】
2日(月)花暦吟行会(六義園)
3日(火)さつき句会(白髭)
5日(木)一木会(日暮里・谷中界隈)
10日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
11日(水)連雀句会(三鷹)
13日(金)板橋句会(中板橋)
14日(土)若草句会(俳句文学館)
19日(木)葵の会(事務所)
21日(土)木場句会(江東区産業会館)
25日(水)すみだ句会(すみだ産業会館)
27日(月)花暦例会・天城合同句会(俳句文学館)
- 関連記事
-