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艸句会報:かつしか(令和2年11月22日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「冬紅葉」

高点1句
背凭れに亡父の窪み秋深し      霜田美智子

コロナ禍の大地の渇き冬の蜂     山本  潔
越後路やダム湖染めゆく冬夕焼    佐治 彰子
鐘の音に旅の余韻や柿紅葉      笛木千恵子
衣食住不自由なくて冬ぬくし     三尾 宣子
分け入りて釣鐘堂の冬紅葉      伊藤 けい
届きさうで届かぬ柿のたわわなる   近藤 文子
冬紅葉巡礼寺に一揆の碑       千葉 静江
小鳥来る町のはずれの算盤塾     小野寺 翠
黄昏や焚るる前の菊匂ふ       中山 光代
山小屋の南京錠や冬もみじ      高橋美智子
迷走の果ての木枯湯畑に       新井 洋子
大店の閉ざす勤労感謝の日      新井 紀夫
嫁ぐ娘に我が家の秘伝菊日和     片岡このみ
雪化粧の蝦夷富士前に朝の膳     五十嵐愛子
靴底に弾ける木の実山下る      霜田美智子

(清記順)

【一口鑑賞】10月に発足したかつしか句会。新型コロナウイルスの第3波で感染が拡大するなか、欠席投句もあったが、12人が出席して有意義な句会となった。「背凭れに亡父の窪み秋深し」霜田美智子さんの句。7人が採り、うち2人は特選。この句は、父が愛用していた椅子の背もたれにある窪みがすべてを物語っている。ちょうど晩秋の頃に亡くなったのだろうか。父への思いと秋の深まりによる寂寥感が漂う。「越後路やダム湖染めゆく冬夕焼」彰子さんの句。一読して夕日に染まるダム湖の景がしっかり立ち上がる。冬の夕焼は束の間だが美しい。旅で見た景色は時間が経ってからでも心の中で熟成し、やがて一句になる。
 「冬紅葉巡礼寺に一揆の碑」静江さんは秩父を旅したときの一句。「一揆の碑」は1884年(明治17)に起きた秩父事件の記録が刻まれている。札所23番「音楽寺」に集結した農民たちは梵鐘を打ち鳴らしながら市内へ乱入。季節はちょうど初冬の頃。そんな史実も踏まえて兼題の「冬紅葉」を上手く詠んだ。「山小屋の南京錠や冬もみじ」高橋美智子さんの句も日常を離れ、旅先で見た景をしっかり詠んでいる。山小屋にかかる南京錠はがっちりしていて、長い間使われているのだろう。「冬紅葉」との取り合わせがうまくいった。(潔)

艸句会報:若草(令和2年11月14日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「栄」

高点1句
裸木の見栄を捨てたる佇まひ     市原 久義

季語はわが心の栄養冬に入る     岡戸 林風
しぐるるや二重螺旋の栄螺堂     山本  潔
枯蓮空の青さの限りなく       飯田 誠子
床暖にごろんと猫とミステリー    針谷 栄子
小春空保母の両手に手と手と手    新井 洋子
父母の月の命日返り花        沢渡  梢
盆栽に蓑虫のゐて貰はれ来      石田 政江
虫喰ひも佳きデザインの落葉かな   市原 久義
新海苔の潮の香りを炙りけり     坪井 信子
なんとなく年寄じみて冬に入る    松本ゆうき
出来栄は潮風まかせ掛大根      隣安
父仔二代無敗三冠菊日和       新井 紀夫
老い猫の大欠伸して小六月      吉﨑 陽子
一陽来復「艸」の弥栄願ふのみ    安住 正子

(清記順)

【一口鑑賞】裸木の見栄を捨てたる佇まひ」久義さんの句。すっかり葉が散った冬の木はまさに「裸木」。その姿に自分自身を重ね合わせている。作者は不慮の交通事故に遭ったが、奇跡的に助かった。不屈の精神でリハビリ生活を送りながら、俳句とも向き合っている。兼題の「栄」の文字をよみ込み、見栄を捨てて前向きに生きる自らの心情を詠んだ。
 「父母の月の命日返り花」梢さんの句。「返り花」は初冬のまだ穏やかな日和に誘われて、桜や躑躅などが季節外れの花をつけること。いつも両親の月命日を大事にしている作者にとって、この時期に咲く返り花は死者からの贈り物のように感じられるのかもしれない。梢さんの父親は30代で、母親は90代で亡くなられた。偶然にも月命日は同じ13日。どちらも金曜日だったそうだ。〈若き母父の日記にゐてぬくし〉は梢さんの句集『白い靴』から引いた。
 「盆栽に蓑虫のゐて貰はれ来」政江さんの句。知人からいただいた盆栽。よくよく眺めていると、蓑虫がぶら下がっているではないか。それだけのことなのだが、この句は盆栽ではなく、蓑虫が立派な主人公になっているところに愛嬌が感じられる。「老い猫の大欠伸して小六月」陽子さんの句。長年一緒に暮らしている猫だろうか。日の当たる縁側で昼寝をしていたと思ったら、何やら大きな欠伸をしている。これから散歩にでも出かけるところか。「小六月」は陰暦10月の異称。立冬を過ぎてからのまだ暖かいのどかなひととき。作者は富山県滑川市在住。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年11月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「記」

高点2句
身に入むや父の歳時記父の文字    春川 園子
禅寺の羅漢大笑神無月        坪井 信子

やがて吾も風となるべし冬の入り   坪井 信子
冬日射す堂宇に奉納千羽鶴      進藤 龍子
絵日記に嘘少しづつ冬近し      飯田 誠子
富士遠く鵯がひよ追ふ日和かな    向田 紀子
照紅葉忍び返しのある屋敷      春川 園子
会計原簿仔細に記さる文化の日    束田 央枝
冬ぬくし記文巧みのゆうきさん    安住 正子
大綿や記帳すませる喪の机      松成 英子
ガラス箱のやうなビル街銀杏散る   中島 節子
枇杷の花告知されたる死への生    横山 靖子
手記を読む拡大鏡や火の恋し     山本  潔
篁に風の寄りそふ秋燕忌       岡戸 林風

(清記順)

【一口鑑賞】身に入むや父の歳時記父の文字」園子さんの句。兼題「記」の句で人気を集めた。父親が使っていた歳時記を大事に保管している。久しぶりにページをめくって、メモ書きを見つけたのだろう。秋の気配の深まる中、懐かしい文字にじっと見入る作者の様子が目に浮かぶ。「冬日射す堂宇に奉納千羽鶴」龍子さんの句。句意は明快。一読してお堂の軒に飾られた千羽鶴の景が見えてくる。もちろん、コロナ禍終息への祈りを込めた千羽鶴に違いない。作者は90歳を過ぎてなお元気に、前を向いて句作りに励んでいる。
 「大綿や記帳すませる喪の机」英子さんの句。「大綿」はアブラムシ科の昆虫。体長2ミリ程度。白い綿状の分泌物をつけ、晩秋から冬にかけて宙を飛ぶ。雪虫、雪蛍、雪婆(ゆきばんば)などと呼ばれ、俳人には人気のある季語の一つ。この句は葬儀場が舞台。記帳を済ませたら、白い大綿が目の前をふと飛んでいったのだ。まるで死者の魂が漂うかのように。
 「篁に風の寄りそふ秋燕忌」林風さんの句。「秋燕忌」は角川書店創業者で俳人としても活躍した角川源義の忌日(10月27日)。〈篁に一水まぎる秋燕 源義〉にちなんでいる。それを踏まえて林風さんの句は詠まれた。こうした本歌取りは、和歌や連歌では意識的に行われる。この句は、南方へ旅立った燕の姿が想起されて切ない。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年10月)

東陽通信句会

高点3句
秋天のどこに打たうか句読点    安住 正子
子規の忌やまだ言ふことをきく体  野村えつ子
山の日をつなぎ止めたるすがれ菊  新井 洋子

恙なき老いの幸せ新酒酌む     長澤 充子
母の歳越えて母恋ふ木の葉髪    野村えつ子
解体の家を明日に残る虫      岡戸 林風
上げ潮の川面を照らす月今宵    斎田 文子
教会の燈に人のゐる秋の雨     堤 やすこ
摩天楼より銀杏黄葉の点と線    中川 照子
美術の秋人の流れに迷ひなく    向田 紀子
秋の日の母の自画像われに似て   飯田 誠子
実むらさき細筆書きの母の文    山本  潔
一房の双手に余る葡萄狩り     貝塚 光子
大降りや鶏頭直に立ちをれり    岡崎由美子
ひらがなは母のぬくもり草の花   安住 正子
桐一葉身につまさるることの日々  中島 節子
熱燗や猫舌も座に加はりて     新井 洋子
後悔はじわりじんわり秋時雨    松本ゆうき

(清記順)

【一口鑑賞】恙なき老いの幸せ新酒酌む」充子さんの句。世界は新型コロナウイルスの流行という不測の事態に見舞われているが、恙なくまた一つ歳を重ねた作者。新酒を酌みながら、健康でいることが何よりの幸せだという実感を素直に詠んだ。「教会の燈に人のゐる秋の雨」やすこさんの句。この秋は天候不順で、特に前半は雨が多かった。春先からのコロナ禍も収束せず、教会で祈りを捧げる人もいるのだろう。秋雨の降る寂しい日、明かりの灯る教会の窓にふと人の姿を見たのか、作者自身も教会の中にいるのか。燈の下にいる人の姿に何だかホッとさせられる。
 「ひらがなは母のぬくもり草の花」正子さんの句。日本人の多くは、ひらがなは柔らかくて親しみやすいと思っているだろう。それを「母のぬくもり」と言い留めたところが作者らしい。「草の花」は秋に咲くいろいろな花。春や夏の花に比べると、地味で可憐なものが多いが、秋の深まりとともに郷愁を誘う。ひらがなを教えてくれたお母さんのように。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年10月28日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「鹿」

高点2句
眼つむりて神鹿角を伐られをり    工藤 綾子
廃線の鉄路消え行く薄原       福岡 弘子

霜降や更地となりし父母の家     岡戸 林風
「鹿狩りに行っています」とジビエ店 貝塚 光子
現世の風ほろ苦く菊膾        内藤和香子
留袖は母の仕立てや菊日和      福岡 弘子
木の実落ついつもの家のいつもの木  岡崎由美子
薄紅葉ほのかに甘き京和菓子     長澤 充子
秋草や堤防渡る牛の列        並木 幸子
久に逢ふ子にも白髪の秋思かな    工藤 綾子
虫の音や脳トレ本をまた開き     川原 美春
鄙歌の聞こえてきさう稲穂波     大浦 弘子
南瓜切る手の緊張をほぐしつつ    桑原さかえ
竹林の風和ぐ夜や鹿の声       山本  潔
身に沁むや足より弱る老の相(さが) 髙橋 郁子
秋寂ぶやテレビの音を消してより   三宅のり子

(清記順)

【一口鑑賞】「眼つむりて神鹿角を伐られをり」綾子さんの句。鹿の角切は奈良の風物詩の一つ。春日大社の神事で寛文年間から行われてきた。発情期の牡鹿の角を切り落としてやることで、鹿同士で争ったり、観光客に危害が加えられたりするのを防ぐ。この句は、まさに「眼つむりて」に眼目がある。共存のためとはいえ、角を切られる鹿への作者の慈しみが感じられる。今年はコロナ禍の影響で行事は中止になった。「留袖は母の仕立てや菊日和」福岡さんの句。「菊日和」は菊の花が盛りを迎えている頃の澄み渡った秋の日。母親が仕立ててくれた留袖を着て、一緒に菊花展を見に行ったことを思い出しているのかもしれない。
鄙歌の聞こえてきさう稲穂波」大浦さんの句。さりげない句だが、鄙歌がいい。田舎で歌い継がれている素朴な歌。黄金色に輝く稲穂が風に揺れる景は郷愁を誘う。読み手にも昔、口ずさんだ歌が聞こえてきそう。「南瓜切る手の緊張をほぐしつつ」さかえさんの句。南瓜は硬くて切るのが苦手な人もいるだろう。特にヘタのところは硬く、包丁を握る手に緊張が走る。いろいろとコツはあるらしいが、まずは手の緊張をほぐす作者。上手に切れたかな。(潔)

艸句会報:かつしか(令和2年10月25日)

かつしか句会(亀有地区センター)

高点1句
静もりてひとり明日の栗を剥く   中山 光代

病床の窓ふるさとへ鳥渡る     近藤 文子
長き夜の長き小説「罪と罰」    平川 武子
十五夜の癒し賜る地球かな     小野寺 翠
廃線に寝転ぶ猫や鱗雲       笛木千恵子
街路樹を横切る速さ野分雲     山田 有子
新句座に米寿の膝を突き合はす   伊藤 けい
あら大変土手が火事です彼岸花   片岡 好子
柿熟るる卯建の上がる父祖の家   新井 紀夫
嵩上げの続く被災地秋の暮     五十嵐愛子
縁石へ重ぬる献花秋時雨      霜田美智子
楽の音もいつかか弱き鉦叩     佐治 彰子
十六夜のゆつくり雲に隠れたり   三尾 宣子
柴又に人のぬくもり鶴来る     山本  潔
嫁ぐ子の幼き寝顔稲の花      高橋美智子
花野ゆくコロナ忘るる一日なり   千葉 静江
対岸を渡舟離るる野菊晴      新井 洋子
戻り来よ妹二人実むらさき     中山 光代

(清記順)

一口鑑賞】葛飾区で40年続いてきた句会を引き継ぐ形で、艸俳句会としては六つ目となる「かつしか句会」が発足した。全員マスク着用。消毒液で机を拭いたり、座る間隔を広めにしたり、感染症対策に気を使いながらも、活発で楽しい句会となった。
 「静もりてひとり明日の栗を剥く」光代さんは欠席投句だったが、選んだ4人中、3人が特選。「静もりて」は気持ちを落ち着かせてということなのだろう。「明日の栗を剥く」という前向きな気持ちを詠んだところに共感した人が多かった。「新句座に米寿の膝を突き合はせ」けいさんの句。今年、米寿を迎えた作者。形を新たにした句会への挨拶句。無季の句だが、「3密」は避けながらも、皆と一緒に俳句と向き合おうという意気込みが伝わってくる。
 「嵩上げの続く被災地秋の暮」愛子さんの句。東日本大震災から来年3月で10年。津波の押し寄せた東北の沿岸部では街全体の嵩上げ工事が今も行われている。被災地で見た景をシンプルに描写した。「楽の音もいつかか弱き鉦叩」彰子さんの句。秋も深まり、虫の大合唱もピークを過ぎた。鉦叩のチンチンチンと鳴く音に、か弱さを感じ取った作者。感性で捉えた一句。「対岸を渡舟離るる野菊晴」洋子さんの句。葛飾といえば柴又の矢切の渡し。対岸(千葉県松戸市)から舟が離れる様子を「野菊晴」で見事に映像化した。(潔)

艸句会報:若草(令和2年10月10日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「小鳥来る」

高点1句
蜂蜜のひと匙の糸秋気澄む     針谷 栄子

新大豆越後屋さんの量り売り    新井 紀夫
瀬音つと変りて紅葉且つ散りぬ   安住 正子
心だけ寄り添ふ秋の深まりし    沢渡  梢
糠床にしかと糠足す秋なすび    石田 政江
気にかかる地球の寿命蚯蚓鳴く   新井 洋子
乾電池替へて夜長の深夜便     市原 久義
老酒に酔うて消えたる秋思かな   山本  潔
小鳥来る窓辺離れぬ猫の耳     岡戸 林風
妹背とてこころに垣根やゝ寒し   松本ゆうき
小鳥来る双眼鏡のある茶房     飯田 誠子
窓ガラス四角に磨き小鳥来る    針谷 栄子

(清記順)

【一口鑑賞】糠床にしかと糠足す秋なすび」政江さんの句。今や糠床のある家は珍しいだろう。子どもの頃、祖母が糠床を大事にしていたのを覚えているが、いつの間にやら糠漬けはスーパーで買うものになっていた。作者は、糠漬けはもちろんのこと、梅漬けや山椒漬けなどを実に小まめに作っている。「秋なすび」は小ぶりになるが、実が引き締まっていて美味しい。茄子漬けは色合いもきれいだ。掲句は「しかと糠足す」に気持ちが込められている。
 「乾電池替へて夜長の深夜便」久義さんの句。「深夜便」といえばN H Kの「ラジオ深夜便」であり、乾電池を替えたのは携帯ラジオである。寝るときに枕もとに置いて聴くのが楽しみになっているのだろう。秋の夜長となれば、聴き入ってしまうことも少なくない。この句は「ラジオ」を省略しながら、ラジオという媒体の魅力を余すところなく伝えている。上五の「乾電池替へて」に軽い高揚感がある。
 「妹背とてこころに垣根やゝ寒し」ゆうきさんの句。「妹背」は夫婦や妹と兄、姉と弟のこと。この句は、作者自身の感情と読んでもいいし、一般論として読んでもいい。歳を経るにつれて人間は心の中に垣根を作ってしまうものだ、という感慨を詠んだのだろう。「やや寒」は秋が深まる中で感じる寒さ。このほか晩秋に感じる寒さは「秋寒」「そぞろ寒」「うそ寒」「肌寒」など語感によって微妙な違いがあるから面白い。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年10月7日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「桐一葉」

高点2句
靖国の兄へ秋思の砂利を踏む    安住 正子
二人ゐて程よき黙や月の夜     岡崎由美子

晩歳や俳句を友に夜長人      横山 靖子
名月の歪み諾ふ裸眼かな      向田 紀子
桐一葉落ちて学舎古りにけり    進藤 龍子
薄もみぢ朝の光の佃島       飯田 誠子
おてんばは八十路の今も残る秋   束田 央枝
珍獣の寝息聴こゆる夜半の秋    山本  潔
桐一葉午後の窓辺の針仕事     岡崎由美子
蚯蚓鳴く木の改札を出てゆけば   松成 英子
ひとり碁の石音低く桐一葉     岡戸 林風
胸張つて咲けばいいのに金木犀   松本ゆうき
リビングの指定席より秋の雲    春川 園子
蒲の絮半分残し日暮れけり     中島 節子
待たされて秋日傾くリウマチ科   坪井 信子
ありなしの風に委ねてコスモス野  安住 正子

(清記順)

【一口鑑賞】晩歳や俳句を友に夜長人」靖子さんの句。「夜長人」は作者自身。上五の「晩歳や」には、ただ老いを感じているというだけではなく、パンデミックの世を過ごしていることへの驚きや怖れなど、さまざまな思いが込められているのだろう。秋の夜長を過ごしながら、困難な時代にあっても俳句が心の支えになっていることをしみじみと感じているのである。
 「おてんばは八十路の今も残る秋」央枝さんの句。ご本人の弁によれば、子どもの頃は相当なおてんばだったらしい。達筆でいつもしとやかな作者の姿からはなかなか想像できないが、それも“おてんば精神”によって培われたものなのだろう。自らを元気づけながら、「残る秋」によって老いへの感慨を詠んでいる。
 「リビングの指定席より秋の雲」園子さんの句。怪我をしてリハビリ生活の作者。今もなかなか思うようには動けないのだろう。まるで指定席のようになったリビングの椅子に座り、窓の外を眺めている。「秋の雲」は他の季節と比べて多彩で見ていて飽きない。とりわけ高い空に広がる鱗雲は郷愁を呼ぶ。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年9月)

東陽通信句会

高点2句
他人ごとのやうで我がこと敬老日  中島 節子
新涼や何刻みてもよきひびき    安住 正子

一と跳ねの鯉の潜きし無月かな   安住 正子
流星や胸ポケットにカードキー   堤 やすこ
登校の列のみじかし蕎麦の花    野村えつ子
秋澄む魚影一瞬日を返す      飯田 誠子
菰解きの菊の香の立つ花舗の朝   長澤 充子
土星の輪思ひ水蜜桃すする     山本  潔
蔵壁のこて絵の屋号秋薊      斎田 文子
半分に分けて幸せ初秋刀魚     新井 洋子
武蔵野に志士の像立つ露しぐれ   岡戸 林風
口ずさむ「桃色吐息」秋暑し    貝塚 光子
下駄箱の古き靴墨ちちろ鳴く    岡崎由美子
月清し菩薩も夜叉もこんばんは   松本ゆうき
雨晴れて雫を萩の花に葉に     中島 節子
紫蘇の実を並んで摘みし広き肩   中川 照子
わらべ唄流るる駅や猫じやらし   向田 紀子

(清記順)

【一口鑑賞】紫蘇の実を並んで摘みし広き肩」照子さんの句。「紫蘇の実」が仲秋の季語。紫蘇は夏に穂状の小さな花が咲く。これが終わると、次々に実がなる。香りが良く、カルシウムやビタミンA、鉄分などが含まれており、塩漬けや佃煮にすればご飯がすすむ。花が残っている穂は「穂紫蘇」と呼ばれ、刺身のつまにする。この句は、紫蘇の実を一緒に摘んだ人を忍んでいる。「広き肩」はご主人か、お父様か。今は亡き人への思いがにじみでている。
 「わらべ唄流るる駅や猫じやらし」紀子さんの句。近年、鉄道の駅ではさまざまな発車メロディーが流れている。例えば、山手線の高田馬場駅は「鉄腕アトム」、恵比寿駅は「第三の男」、駒込駅は「さくらさくら」。地下鉄の銀座駅では「銀座カンカン娘」(銀座線)、「銀座の恋の物語」(日比谷線)など馴染みの深い曲が採用されている。掲句は、どこかの駅で童謡を聴いてとっさに詠んだのだろう。秋の季語「猫じやらし(狗尾草)」との取り合わせが効いている。ネット検索してみると、「夕焼け小焼け」(八王子駅)、「たきび」(豊田駅)、「チューリップ」(前橋駅)、「浜辺の歌」(辻堂駅)、「金太郎」(大雄山駅)など懐かしい童謡がいろいろ出てくる。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年9月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
爽籟や急磴下る僧の下駄      長澤 充子
さん付けで昆虫を呼ぶ花野の子   福岡 弘子
江戸の御世語り継ぐかに法師蝉   髙橋 郁子

秋晴にものといふものみな干せり  飯塚 とよ
番傘の粋な舟宿秋黴雨       大浦 弘子
コロナ禍の下す暖簾や秋の風    髙橋 郁子
新種とや諸手に余る梨を剥く    長澤 充子
秋風の窓辺むかしのオルゴール   岡崎由美子
釣りあげしタナゴの尾びれ荻の声  並木 幸子
野葡萄や富士の山頂雲がくれ    福岡 弘子
麻痺の手に胡桃二つをのせてみる  川原 美春
山麓の径遠近の秋の声       岡戸 林風
敬老日しつくり来るのはいつだらう 松本ゆうき
またねとはもう会えぬかも秋の暮  工藤 綾子
秋茄子の味噌汁五臓に染みいりし  桑原さかえ
糸瓜忌の二度寝の夢にうなされて  山本  潔

(清記順)

【一口鑑賞】爽籟や急磴下る僧の下駄」充子さんの句。「籟」とは三つの穴のある笛。また、笛の音。転じて「爽籟」と言えば爽やかな風の音のこと。秋風が体感に訴えるのに対し、爽籟は聴覚に訴える季語と言っていい。この句は、お寺の石段を下りる僧の姿に視点を置きながら、「爽籟」と巧みに取り合わせた。下駄の音とともに、爽やかな秋の風が吹いている景が見えてくる。
釣りあげしタナゴの尾びれ荻の声」幸子さんの句も秋の風音が聴こえる。タナゴは淡水魚で関東以北の太平洋側に分布する。体長6〜10センチ。「世界最小のターゲット」とも呼ばれ、小川や用水路などの浅い場所に泳いでおり、釣り好きには人気があるという。この句は、釣り上げられたタナゴが掌の上で尾びれをピクピクさせている様子が哀感をそそる。周囲には銀白色の荻が咲いている。「荻の声」は荻の葉に吹く風音。古人はとりわけこの音に心を寄せた。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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