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艸句会報:若草(令和3年2月13日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「春一番」

高点1句
料峭やカレー饂飩の染み二滴     針谷 栄子

春一番富山平野を均しゆく      吉﨑 陽子
草萌ゆる磨けば光る泥団子      新井 洋子
子のゐない校庭ひろし鳥雲に     松本ゆうき
亡き友に唱ふ御詠歌春寒し      石田 政江
継当てのさくらのかたち春障子    市原 久義
二人がかりの猫の点眼春一番     針谷 栄子
花すみれ天守へ辿る道しるべ     飯田 誠子
牡丹雪劇の終りのごときかな     安住 正子
春雨やバスにアニメのラッピング   沢渡  梢
少女らの微分積分春一番       山本  潔
白杖の人の手を取る北風の中     新井 紀夫
春一番耳に当てたる虚貝       岡戸 林風
春月や祷りの島の天守堂       坪井 信子

(清記順)

【一口鑑賞】料峭やカレー饂飩の染み二滴」栄子さんの句。「料峭」は「春寒」の副季語であり、春風が肌に冷たく感じられることを言う。真冬の寒さや、立春後の余寒とは異なり、春になった気分が強調される。そんな時期のカレー饂飩も格別に美味しく、気持ちが明るくなったことだろう。「染み二滴」ぐらいならご愛嬌のうちといったところか。「春一番富山平野を均しゆく」陽子さんの句。春が来て最初に吹く南風が「春一番」。今年、関東地方では2月4日に吹いた。昨年より18日早く、1951年の統計開始以来最も早かった。作者の住む北陸地方はこの冬、大雪に見舞われただけに春が待ち遠しいことだろう。富山平野は富山湾に面した扇状地帯に広がる珍しい地形。掲句は「均しゆく」という措辞で平野を大きくとらえたところが上手い。(潔)

艸句会報:連雀(令和3年2月)

連雀通信句会
兼題「豆」

高点2句
「艸」一年は礎となり草青む     束田 央枝
豆餅を焼けば祖母の手祖母の顔    岡崎由美子

如月や蛇籠にあそぶ水の音      安住 正子
枡で売る谷中の豆腐春近し      進藤 龍子
白梅や俳句支へにわが余生      春川 園子
待春やシャンパンを抜く誕生日    向田 紀子
人の命かくもか弱き樹氷林      横山 靖子
斑野やぽつんぽつんと農具小屋    松成 英子
生きてこそ確かな鼓動初山河     矢野くにこ
チョリソーと煮豆のスープ寒明くる   山本  潔
彼の世でも夫は猫舌小豆粥      坪井 信子
悩みても栓無きことよ葛湯吹く    岡崎由美子
もしかしてコロナももののけ鬼は外  松本ゆうき
常備菜は大豆と鹿尾菜煮て飽きず   束田 央枝
児童館の三和土に転ぶ年の豆     飯田 誠子
薬局へ小雪舞ひをり町夕べ      中島 節子

(清記順)

【一口鑑賞】『艸』一年は礎となり草青む」央枝さんの句。昨年1月の「艸」創刊から1年が過ぎた。予期せぬコロナ禍により句会開催などに多少影響が出たものの、俳句を楽しむ土台はしっかりできた。そんな気持ちを「草青む」という季語に託して詠んでいる。一人一人の前向きな気持ちが「艸」の力になっていくと思わせてくれる一句。「豆餅を焼けば祖母の手祖母の顔」由美子さんの句。豆餅は全国的に食べられているようだが、地域によって黒豆だったり、赤豌豆だったり、大豆だったりとさまざま。この句は、豆餅を焼きながら、大好きだった祖母のことを懐かしんでいる。「祖母の手」「祖母の顔」との繰り返しが効果的だ。作者自身が祖母の姿になっているような感覚にとらわれているのかもしれない。(潔)

艸句会報:船橋(令和3年1月)

船橋通信句会

高点2句
日脚伸ぶ小さき畑に鍬を入れ     小杉 邦男
冬ざれや研ぎ師の洗ふ水砥石     山本  潔

元気かと声が我へのお年玉      飯塚 とよ
双六や思ひ出の地を飛び越えて    並木 幸子
家飲みの酢牡蠣を卓に宵の口     新井 洋子
ゆめと書くデイサービスの筆始め   市原 久義
初筑波北北東に山並も        小杉 邦男
初空や数多学びの余生あり      川原 美春
凧揚げし昔日遠く晴天日       平野 廸彦
寒菊の曲らぬ高さ久女の忌      針谷 栄子
春近し待合室のヴィヴァルディ    山本  潔
ほこほこと苑の芝生や春隣      岡崎由美子
幾年か「逢おうね」友と初電話    三宅のり子
重ねきし通信句会春隣        岡戸 林風

(清記順)

【一口鑑賞】日脚伸ぶ小さき畑に鍬を入れ」邦男さんの句。家庭菜園だろうか。冬の間に土を耕すことで草が生えにくく、土壌も肥えてくる。冬至(12月22日頃)を過ぎれば昼間の時間が少しずつ長くなるが、それを実感するようになるのは1月半ばからで太陽の日差しも暖かさが感じられる。この句は、土を鋤き起しながら感じた「日脚伸ぶ」を端的に詠んだ。
 「元気かと声が我へのお年玉」とよさんの句。ふと聞こえた声の主は昨年亡くなったご主人だろう。「元気か」とやさしく問いかけられて嬉しかった気持ちを素直に句にした。「双六や思ひ出の地を飛び越えて」幸子さんの句。日本一周か世界一周か、旅の双六を楽しんだ作者。かつて旅した地を飛び越した時には懐かしさがこみ上げてきた。
 「初空や数多学びの余生あり」美春さんの句。元旦の晴れ渡った空を眺めての感慨。いろいろ学ぶことが余生の楽しみになっているのだろう。何事にも前向きな作者のことだから、俳句上達も心に誓ったはずだ。「凧揚げし昔日遠く晴天日」廸彦さんの句も正月の空を見ての感慨。晴天に高く揚がる凧を眺めながら、若かりし頃を思い出している。「幾年か『逢おうね』友と初電話」のり子さんの句。友との初電話。「逢おうね」と言いながら幾年が過ぎたのだろうか。(潔)

艸句会報:すみだ(令和3年1月)

すみだ通信句会

高点1句
月並の句座も叶はず去年今年     岡戸 林風

人声を攫ひし怒濤冬の海       工藤 綾子
放牧の牛の口にも若菜かな      内藤和香子
笹鳴や菓子パン好きの子規が好き   山本  潔
海むいて並ぶ民宿水仙花       福岡 弘子
足型に足置き並ぶ鯛焼屋       岡崎由美子
坂がかる古き家並や冬すみれ     長澤 充子
退院の友より熟し冬苺        貝塚 光子
面会の叶はぬ夫や春を待つ      髙橋 郁子
読初は百鬼夜行の絵巻なり      松本ゆうき
寒夕焼レンガ造りの倉庫群      岡戸 林風
牛の眼の濡れし眸に芽吹山      大浦 弘子

(清記順)

【一口鑑賞】月並の句座も叶はず去年今年」林風さんの句。コロナ第3波の影響ですみだ句会も昨年5、6月以来の通信(郵便)句会となった。海外ではワクチン摂取が始まる一方で、変異型ウイルスの感染も拡大しており、情勢は予断を許さない。日本政府の対応は遅れており、コロナ終息の見通しは立っていない。この句は、毎月の句会にも影響が及ぶ日常がまだまだ続くことへの嘆きを冷静に詠んでいる。
 「放牧の牛の口にも若菜かな」和香子さんの句。「若菜」は新年の季語。七種粥に入れる若草を指す。それが牛の口についていたとは、今年が丑年であることも踏まえた想像の一句だろうか。もっとも、年が明けたばかりの野原に出て若菜を摘むこともあり、「若菜摘」も新年の季語。牧場での実景であってもおかしくない。「牛の眼の濡れし眸に芽吹山」大浦さんも牛を見て一句。潤んだ眸に映る山に春の芽吹きを見つけた。
 「読初は百鬼夜行の絵巻なり」ゆうきさんの句。日本の古い説話などに深夜に群れて徘徊する鬼や妖怪が登場する。暦によって、百鬼に遭遇すると死んでしまうと言われる日があり、貴族などは夜の外出を控えたという。そんな百鬼夜行の描かれた本を年初から読んだのだろう。コロナも言わば百鬼の一つかもしれない。(潔)

艸句会報:東陽(令和3年1月)

東陽通信句会

高点2句
日だまりに収まるほどの鴨の陣    野村えつ子
一声は自負か威嚇か寒鴉       中島 節子

紅ささぬ口許にヒゲ初笑ひ      中川 照子
年酒酌む並の暮らしを諾うて     岡戸 林風
これはならぬあれもならぬと日向ぼこ 堤 やすこ
おはやうも言はずこつんと寒卵    岡崎由美子
三寒の朝なり頬を軽く打ち      中島 節子
城垣の小さき日溜り福寿草      飯田 誠子
大川を渡れば冬がもう一つ      安住 正子
子に還る母のゆびさき福笑      山本  潔
さざれ波寄せて綾なす冬の浜     長澤 充子
高層の灯を消してゆく除夜の鐘    野村えつ子
かけ声に型の決まりし梯子乗     向田 紀子
老ゆる身に子の労りや日向ぼこ    斉田 文子
公園にボンゴのリズム春隣      貝塚 光子
炉話や語るも聞くも眼つぶりて    新井 洋子
いい加減あきて疲るるマスク顔    松本ゆうき

(清記順)

【一口鑑賞】一声は自負か威嚇か寒鴉」節子さんの句。鴉は一年中、我々の生活圏ぎりぎりのところに居て食べ物を狙っている。寒い朝には2、3羽でゴミ袋をあさる姿を見かけることもあるが、決してつるんでいるわけではない。むしろ真冬の鴉は見るからに孤高の風情が漂う。そんな「寒鴉」が発した声に作者は心を寄せている。「かけ声に型の決まりし梯子乗」紀子さんの句。今年は消防士の出初式も観覧者なしで行われたところが多かった。東京消防庁の出初式はYouTubeで配信されており「梯子乗」の型も紹介されている。しかし、生で見る時のようなハラハラ感は乏しい。この句は勇敢な梯子乗の姿を端的に伝えている。
 「老ゆる身に子の労りや日向ぼこ」文子さんの句。息子、娘さんたちとは同居しているのだろうか、あるいは近くに住んでいるのか。日向ぼこをしながら日々の暮らしを振り返ると、さりげないところで労られている自分に気づく。冬の太陽のぬくもりのなかで家族の顔を思い浮かべるひととき。「炉話や語るも聞くも眼つぶりて」洋子さんの句。いまや囲炉裏のあるところは限られているから、旅先で炉話を聞いたときの思い出だろうか。あるいは、一家団欒の中で誰かが昔話を始めた場面ととらえてもいい。目をつむることで語る方も聞く方も話に集中している。現代では失われつつある炉話の景が浮かぶ一句。(潔)

艸句会報:かつしか(令和3年1月24日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「鍋」一切

高点2句
春を待つさなぎのやうに脱ぐ下着   山田 有子
絵羽織の仕付け糸引く初鏡      近藤 文子

卒寿まであとふたとせや実千両    伊藤 けい
梅香る三度仰ぎて女坂        中山 光代
書初や思ひを込めて健康と      五十嵐愛子
梅花人参散らす大皿大家族      新井 洋子
我が病ゆるゆる癒える冬木の芽    平川 武子
風花や雑踏をゆく真知子巻き     霜田美智子
寒月を独り占めする仕舞風呂     近藤 文子
冬の雨二人の椅子はアールデコ    山田 有子
擂鉢の音や三日のとろろ汁      小野寺 翠
おでん鍋あとから一人加はりぬ    片岡このみ
「俺がやる」夫の言ひ出す鍋奉行   三尾 宣子
猪鍋や鬼の小言を聞きながら     山本  潔
清滝や剣のごとき氷柱下げ      佐治 彰子
肩肘を張らず寄り添ふおでん酒    笛木千恵子
シクラメン今年も選ぶ母の赤     西村 文華
初稽古要の固い舞扇         千葉 静江
深川へ相撲帰りのさくら鍋      新井 紀夫
湯豆腐の湯気にほどける心地して   高橋美智子

(清記順)

【一口鑑賞】絵羽織の仕付け糸引く初鏡」文子さんの句。近年は正月に着物姿の人を見る機会も少なくなった。とりわけ今年はコロナ下にあって年始参りどころではなかった。この句は思い出の中の1シーンだろう。年が改まり、絵羽織の仕付け糸を取り外したことに焦点を当ててシンプルに詠んだ。「初鏡」の前で気持ちも引き締まる。「我が病ゆるゆる癒える冬木の芽」武子さんの句。療養中で欠席投句の作者。春には句会に出ることを楽しみにしながら、家で句作に励んでいる。「冬木の芽」に励まされ、快方に向かっているようだ。全快を祈ります。
風花や雑踏をゆく真知子巻き」霜田美智子さんの句。「真知子巻き」は昭和28年に大ヒットした映画「君の名は」のヒロインの名にちなんだファッション。ショールを頭から首の回りに巻いた姿は、映画を知らない世代でも目に浮かぶ。風花の舞う雑踏なら、今も真知子巻きは目を引きそうだ。「肩肘を張らず寄り添ふおでん酒」千恵子さんの句。本来、おでん酒とはそんなふうにして飲むから楽しい。ソーシャルディスタンスの世の中ではそうもいかなくなったが…。
シクラメン今年も選ぶ母の赤」文華さんの句。シクラメンと言えば、赤、白、ピンクがすぐに思い浮かぶ。いざ買おうとすると、同じ色の中でも微妙に明るさや模様が異なるので迷う。この句は「母の赤」がポイント。お母さんの好みの赤を熟知している作者の優しさが表れている。(潔)

艸句会報:若草(令和3年1月)

若草通信句会
兼題「信」

高点1句
毛糸編む編めば睡魔の来てすわる   飯田 誠子

初釣りの魚信定かに竿の先      岡戸 林風
寒の雨路面に滲む赤信号       沢渡  梢
羽子高く突いて未来を見に行かむ   山本  潔
朝の日のとびつく信濃冬林檎     飯田 誠子
降りしきる雪の隠せる信号機     安住 正子
白障子碁笥の木目のきはやかに    新井 洋子
本当は森で眠つてゐたき熊      市原 久義
病よき夫と炬燵に猪口ふたつ     石田 政江
息詰めて雪の深さを信じけり     坪井 信子
言ふならば小原庄助三が日      松本ゆうき
神在す立山三山初景色        吉﨑 陽子
手締めする事もかなはず去年今年   新井 紀夫
耳鳴りの幾万匹の寒夜かな      針谷 栄子

(清記順)

【一口鑑賞】1月7日に緊急事態宣言が再発令されたことに伴い、9日に予定していた若草句会はF A Xによる通信句会となった。そんな中で最も人気を集めたのが誠子さんの句。「毛糸編む編めば睡魔の来てすわる」。冬の季語「毛糸編む」を上五に置きながら、居眠りをしている作者自身をコミカルに詠んでいる。中七、下五の畳みかけるような措辞が心地よく、ユーモアにあふれている。
 「本当は森で眠つてゐたき熊」久義さんの句。「熊」が冬の季語。冬は山奥の洞穴に籠るが、昨年後半から人里で熊の目撃情報が相次いでいる。団栗が不作で餌を求めてやってくるらしい。また、コロナ禍の影響で山歩きをする人が増えて熊に襲われるケースもあるという。この句は、そんな事情を踏まえているのだろう。地球の気候変動は動植物にも変化をもたらす。熊への思いやりを感じさせる一句。
 「神在す立山三山初景色」陽子さんの句。「立山」は北アルプス北部の山の総称で、雄山(おやま)、大汝山(おおなんじやま)、富士ノ折立(ふじのおりたて)からなる。これに南の浄土山、北の別山(べっさん)を合わせたのが「立山三山」。北陸の広大な山岳地帯は「神在す」領域と言っていい。富山県に暮らす作者。ここの初景色にコロナ禍の終息を祈ったに違いない。(潔)

艸句会報:連雀(令和3年1月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「日」

高点1句
ゆるゆると老いて一人の寝正月    坪井 信子

東京のまさをな空の三が日      飯田 誠子
凍空や音したたかに基地のヘリ    束田 央枝
牛日のミルクにひたす胡桃パン    山本  潔
凍星のひとつ瞬く小窓かな      坪井 信子
俳諧は生き甲斐なりし初句会     安住 正子
寒鴉一声夕日落ちにけり       松成 英子
来し方を想ふ窓辺や冬夕焼      春川 園子
あれこれとレシピ片手に小晦日    中島 節子

 明恵上人に
あかあかやあかあかあかや初日の出  松本ゆうき
裏道の古き自販機冬の草       岡崎由美子
炎立つ富士の稜線寒夕焼       向田 紀子

 サントリーホール
マスクして歌う第九を聴くマスク   横山 靖子
(清記順)

 【一口鑑賞】昨年後半からの新型コロナウイルス第3波による感染拡大が止まらない中、この日が初句会となった。「ゆるゆると老いて一人の寝正月」信子さんの句。昨年夏にご主人を亡くされた作者。外出自粛も加わり、三が日はほとんど一人で過ごしたのだろう。寂しさを感じながらも「寝正月」というささやかな時が自分自身を見つめ直す機会になったのかもしれない。「ゆるゆると老いて」は決して弱音を吐くまいとする作者の強がりのように思えてくる。
 「寒鴉一声夕日落ちにけり」英子さんの句。冬は夕暮れどきでも烏をよく見かける。フェンスや塀の上などでじっと人間をにらんでいるのは、食べ物を求めているからだろう。そんな烏に作者は親しみを感じて近づこうとしたのかもしれない。しかし、その一瞬の動きの中で烏は一声を放って飛び去り、あっという間に日も暮れたのである。寒烏と人間の距離を無駄なく描いた一句。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年12月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「数へ日」

高点2句
葉ボタンの渦に記憶の周波数     並木 幸子
綿虫の漂ふ黙や樹々の黙       貝塚 光子

数へ日のあれもこれもが繰り越しに  三宅のり子
数へ日や老には老の役目あり     髙橋 郁子
数へ日の居場所となりし句座一つ   岡戸 林風
文机の一灯冴ゆる夜の句集      岡崎由美子
里山の落葉溜りは子らの基地     貝塚 光子
数へ日やテディベアを繕ひて     川原 美春
冬至風呂労はりほぐす膝小僧     内藤和香子
来世への手形のつもり古日記     山本  潔
冬の雨奥に遺影の写真館       並木 幸子
家計簿の余白にふはり木の葉髪    工藤 綾子
少しづつ馴染む晩学石蕗の花     福岡 弘子
一年の憂さ吹きとばす大くさめ    松本ゆうき
湖畔の朝馬車来て御者の息白し    長澤 充子
逝く年や五臓に染みる故郷の酒    大浦 弘子

(清記順)

【一口鑑賞】葉ボタンの渦に記憶の周波数」幸子さんの句。この日が2020年の句座納め。掲句を採った4人中、3人が特選でいずれも「『記憶の周波数』という表現に斬新さを感じた」という。一方で「句意が分かりにくい」との意見も出た。作者によれば、今年のいろいろなことが渦を巻いたような葉牡丹の形に重なり合って「記憶の周波数」という言葉になった。例えば「葉牡丹や記憶の渦の周波数」とでも直す余地はあるが、まずは作者の感覚を大事にして原句のままとした。「一人ひとりが詩情を培い、オリジナリティーを追求する」ことが「艸」の出発点。新しい年もこの気持ちを大事にしていきたい。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年12月)

東陽通信句会

高点2句
山茶花やキッチンカーに招き猫    新井 洋子
ふところに列車走らせ山眠る     野村えつ子

冬木の芽子ら駆けてゐる芝の上    貝塚 光子
点りても寂しき赫よ青木の実     向田 紀子
一陽来復光のとどく机・椅子     堤 やすこ
一碧の沖に船置く枯尾花       中島 節子
眉引きしのみのこもり居冬ざるる   安住 正子
子らの声散つて明るくなる枯野    岡崎由美子
極月の声に気合や消防士       野村えつ子
裸木の並木は空を支へをり      新井 洋子
知りつくす日本の都ゆりかもめ    岡戸 林風
うたた寝と読書と雪見障子かな    山本  潔
遠富士や青首大根肩並べ       斎田 文子
走り根の滑る小径や冬木立      長澤 充子
江戸弁の売り子の声や年の市     飯田 誠子
日短か雀色時ひとを恋ふ       松本ゆうき
日記買ふ「残日録」と銘打ちて    中川 照子

(清記順)

【一口鑑賞】ふところに列車走らせ山眠る」えつ子さんの句。ローカル線の旅だろうか。寒々しい中にあっても、冬日の当たる雑木山の景に何だかほっとさせられる。「山眠る」は北宋の画家・郭熙(かくき)の画論の一節「冬山惨憺として眠るが如し」に基づいた季語。眠りの中にある雑木山が列車の音をぼんやりと聴いている感じだ。冬の山を擬人化して的確に詠んでいる。
 「一碧の沖に船置く枯尾花」節子さんの句。小高い丘に立つ作者。沖に広がる碧い海を俯瞰している。キラキラ光る水平線には船が動いているようでもあり、泊まっているようでもあり。振り返れば、近くには枯尾花の野が広がっている。まるで一枚の絵のような一句。「遠富士や青首大根肩並べ」文子さんの句はよく目にする写真のようだ。青首大根の並ぶ畑をアップにして、遠くに富士山が小さく写っている。
 「日記買ふ『残日録』と銘打ちて」照子さんの句。何事にも細やかな作者のこことだから、かつては夢を綴る「夢日記」だったかもしれない。今は「残実録」と名付けたが、決して開き直ったわけではない。年の功で人生を達観するようになった証だろう。これからも「残実録」を長い長い俳句の記録にしてほしい。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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