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艸句会報:連雀(令和2年5月)

連雀通信句会

高点3句
沙緻の忌の卓に新茶と新刊書      岡崎由美子
休校の校庭広し四月尽         岡崎由美子
足弱になれども歩く若葉道       春川 園子

母の日や母と呼ばれて六十年      吉﨑 陽子
草ぐさの葉先にしづく春時雨      春川 園子
三密は避けやうもなく蝌蚪の池     安住 正子
星一つうなされており百閒忌      山本  潔
春暁の山鳩鳴くに目覚めけり      横山 靖子
竜天に息の乱れは気の乱れ       坪井 信子
五十年共にくらして古茶新茶      松成 英子
「もういいかい」コロナに聞かん聖五月 松本ゆうき
なんとなく開けてみてゐる冷蔵庫    進藤 龍子
満開のつつじ色濃く疲れけり      飯田 誠子
干菓子食む音やひとりの春の昼     中島 節子
たゆみなき流れにカラー白格む     束田 央枝
青芝や不意に始まる鬼ごつこ      岡崎由美子
終活は口先ばかり心太         向田 紀子

(清記順)

【一口鑑賞】沙緻の忌の卓に新茶と新刊書」由美子さんの句。コロナ禍で政府の緊急事態宣言が発令されるなど落ち着かない日々が続いている。そんな中にあっても先師の忌(5月1日)を大事にしている作者。<胸に抱く青きセロリと新刊書 舘岡沙緻>を踏まえつつ、「新刊書」は私の第一句集『艸』への挨拶にもなっている。ありがたい一句。「休校の校庭広し四月尽」も由美子さんの句。学校も休校のまま四月が終わった。本来なら子供たちの声で賑やかなはずの校庭が静まり返り、妙に広く感じられたのだ。写生の目でコロナ禍の日常を捉えている。
足弱になれども歩く若葉道」園子さんの句。大怪我をして歩くのもやっとという日々を過ごしている。それでも弱音ばかりを吐いてはいられない。リハビリを兼ねた散歩を欠かさない作者。どんなにか若葉に励まされていることか。「たゆみなき流れにカラー白格む」央枝さんの句。「カラー」は「和蘭海芋(おらんだかいう)の俗称。初夏の頃、水芭蕉に似た白いラッパのような苞葉をつける。水のきれいなところに咲くカラーはまさに「白格(きわ)む」感じ。東京・国分寺のお鷹の道に沿う用水は環境省の名水百選にも選ばれているが、ここで見たカラーを思い出した。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年4月)

東陽通信句会

高点2句
胴吹きの幹逞しく「艸」の春     長澤 充子
ひとりごと言ふ癖つきぬ放哉忌    中川 照子

書くのみの恋文たのし四月馬鹿    中川 照子
リラ冷や聖路加タワーは硝子張り   堤 やすこ
春窮の家に籠りて日々疎し      岡戸 林風
雲雀落つ天の言伝て携へて      新井 洋子
魚島のいきなり鯨めく形       山本  潔
曳く水尾に力なほあり残り鴨     野村えつ子
花屑を掃くも気晴らし自粛の世    貝塚 光子
春月に助けたまへと祈りけり     斎田 文子
語り合ふ恋の窓辺やリラの花     長澤 充子
陽炎や道の辺に人悼む花       岡崎由美子
ユトリロの描く街角風光る      飯田 誠子
自粛期の名画三昧春逝かす      向田 紀子
自粛てふ日々の長きや花は葉に    安住 正子
春満月アインシュタイン舌(べろ)出した  松本ゆうき

(清記順)

一口鑑賞】「ひとりごと言ふ癖つきぬ放哉忌」照子さんの句。コロナ禍で引き籠り状態になっている今のご時世を踏まえているが、「ひとりごと言ふ癖」は一人暮らしの人にとっては、以前からありがちなことでもあろう。そこはかとない孤独感は下五に置いた「放哉忌」と響き合っている。尾崎放哉は種田山頭火と並ぶ放浪の俳人。エリートの道を捨てて数奇な人生を歩み、大正15年4月7日、42歳でこの世を去った。<咳をしても一人>は結核の末期状態の中で詠まれた凄惨な一句。「曳く水尾に力なほあり残り鴨」えつ子さんの句。引き籠りがちになればなるほど、こうした写生句に惹かれるのはなぜだろう。日本で越冬した後も怪我や病気で北の地へ帰れなくなった残り鴨。憂えの中にも、鴨の曳く水尾に力があると見たところに、作者自身の心が投影されているのではないか。<残りしか残されゐしか春の鴨>は岡本眸の句。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年4月)

連雀通信句会

高点2句
蝌蚪の尾にはじまる沼の動きかな   安住 正子
句集「艸」読み返しをり花の昼    中島 節子

窈窕のしだれ桜に酔ひにけり     安住 正子
蜃気楼見てきし夜の貝の汁      松成 英子
魚よりも魚影確と春の池       坪井 信子
引き籠もる部屋の隅まで朧かな    山本  潔
囀のひとかたまりや楠大樹      中島 節子
今日も無事紅の鎮もる春夕焼     束田 央枝
花に逢ひ花に別るる一会かな     矢野くにこ
我が庭を選び山鳩巣籠れり      横山 靖子
消息をたしかめ合ふや草の餅     吉﨑 陽子
花こぼし鳥の尾羽の見え隠れ     向田 紀子
ほどほどに暮らして今日の桜かな   松本ゆうき
夕朧骨董市に江戸切子        飯田 誠子

(清記順)

【一口鑑賞】新型コロナウイルスはパンデミック(世界的大流行)を引き起こした。国内でも非常事態宣言が発令され、外出もままならなくなっている。句会が開けず、俳句は一体どうなってしまうのか?あれこれ考えているうちに、連雀句会では早々に手紙による通信句会が立ち上がった。取りまとめ役を買って出てくれた幹事さんには頭が下がる。
蝌蚪の尾にはじまる沼の動きかな」正子さんの句。俳句を作りたい一心で近所の沼を見に行ったのだろう。コロナ禍にあっても、季節は確実に移ろう。水の中では卵から孵ったお玉杓子が泳いでいる。人が近づいた振動を察知してお玉杓子が一斉に泳いだ瞬間、沼の水が濁った。これを作者は「沼の動き」と感じ取ったのである。こんな時だからこそ写生を大切にしたい。そんな思いが伝わってきた一句。「魚よりも魚影確と春の池」信子さんの句も同様に写生に徹した秀句。
句集『艸』読み返しをり花の昼」節子さんの句。私が3月下旬に刊行した句集への挨拶句である。ウイルス感染拡大で人々が家に引き籠もりがちになるタイミングを狙ったわけではないが、ありがたいことに多くの方々から反響があり、手ごたえを感じている。この句も「読み返しをり」だから、何度もページをめくってくれていることがうかがえる。季語「花の昼」も効いている。今年の桜は早く咲いた割には長持ちした。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年3月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「浅蜊」

高点1句
薔薇の芽や心折れたる日も赤し    岡崎由美子

思ふこと叶はぬ今日の牡丹雪     岡戸 林風
薔薇芽立つ三階建てのベーカリー   髙橋 郁子
春の蝶ひらがなあそびして去りぬ   工藤 綾子
葱坊主山から猿の来る頃か      福岡 弘子
日替りの理屈をこねる日永かな    松本ゆうき
亡き父の墓前にタバコ椿散る     桑原さかえ
さりげなくフラダンスして潮干狩   大浦 弘子
春の服着て蝶になる女の子      岡崎由美子
幼馴染みのをみなと選ぶ春の服    貝塚 光子
「深川めし」の暖簾分け入る花の昼  長澤 充子
貝寄風や見へぬものほど恐ろしき   山本  潔

(清記順)

一口鑑賞】「薔薇の芽や心折れたる日も赤し」由美子さんの句。この春は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、外出もままならない状況になってしまった。句会をしようにも公共施設が閉館となり、イベントや集会も自粛ムードが広がった。そんな間隙を縫って開かれた句会で共感を得たのがこの一句。「心折れたる日」という措辞が現況をうまく言い表している。炎のように赤い薔薇の芽との対比も絶妙だ。「葱坊主山から猿の来る頃か」弘子さんの句。葱の花が咲くころは春も深まり、山里も精気に満ちている。ならば猿も餌を求めてやってくるだろう。コロナ禍の中にあってもユーモラスな気持ちを忘れないことが大事だと思わせてくれる一句。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年2月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「余寒」「冴返る」

高点2句
生きるとは繰り返すこと地虫出づ   髙橋 郁子
回廊の長き余寒を踏みにけり     髙橋 郁子

飼ひ猫の廊下を駆くるだけの恋    岡崎由美子
城登るマスクの列の忍者めく     貝塚 光子
灯台の光に踊る波の花        大浦 弘子
ゲームにも倦み春愁の眼鏡拭く    岡戸 林風
捨て畑やペンペン草のはびこれり   髙橋 郁子
ウイルスに怯(おび)える日本冴返る 福岡 弘子
いつまでも老いない雛や何を待つ   松本ゆうき
春光の巨木万枝を包みをり      工藤 綾子
満面の笑み返す嬰春うらら      桑原さかえ
本堂へ軋む廻廊冴返る        長澤 充子

(清記順)

一口鑑賞】「回廊の長き余寒を踏みにけり」郁子さんの句。早春の頃に大寺や城を訪れたことのある人なら、その寒さは分かるだろう。しんしんと冷える真冬の寒さとは異なるが、寒明け後の「残る寒さ」も決して侮れない。掲出句はそんな感覚を「余寒を踏みにけり」で体感的に巧みに表現している。「飼ひ猫の廊下を駆くるだけの恋」由美子さんの句。恋猫がいろいろ格闘している様子を詠んだ句は多いが、「廊下を駆くるだけの恋」という把握が上手い。時代が変われば猫も変わる。飼猫に対する作者の慈愛が感じられる。「ゲームにも倦み春愁の眼鏡拭く」林風さんの句。掴みどころのない愁いが「春愁」。作者のもてあましたゲームとは一体何だろう。新型コロナウィルス騒動が拡大する中、「眼鏡吹く」にうんざりした感じがよく表れている。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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