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艸句会報:若草(令和2年11月14日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「栄」

高点1句
裸木の見栄を捨てたる佇まひ     市原 久義

季語はわが心の栄養冬に入る     岡戸 林風
しぐるるや二重螺旋の栄螺堂     山本  潔
枯蓮空の青さの限りなく       飯田 誠子
床暖にごろんと猫とミステリー    針谷 栄子
小春空保母の両手に手と手と手    新井 洋子
父母の月の命日返り花        沢渡  梢
盆栽に蓑虫のゐて貰はれ来      石田 政江
虫喰ひも佳きデザインの落葉かな   市原 久義
新海苔の潮の香りを炙りけり     坪井 信子
なんとなく年寄じみて冬に入る    松本ゆうき
出来栄は潮風まかせ掛大根      隣安
父仔二代無敗三冠菊日和       新井 紀夫
老い猫の大欠伸して小六月      吉﨑 陽子
一陽来復「艸」の弥栄願ふのみ    安住 正子

(清記順)

【一口鑑賞】裸木の見栄を捨てたる佇まひ」久義さんの句。すっかり葉が散った冬の木はまさに「裸木」。その姿に自分自身を重ね合わせている。作者は不慮の交通事故に遭ったが、奇跡的に助かった。不屈の精神でリハビリ生活を送りながら、俳句とも向き合っている。兼題の「栄」の文字をよみ込み、見栄を捨てて前向きに生きる自らの心情を詠んだ。
 「父母の月の命日返り花」梢さんの句。「返り花」は初冬のまだ穏やかな日和に誘われて、桜や躑躅などが季節外れの花をつけること。いつも両親の月命日を大事にしている作者にとって、この時期に咲く返り花は死者からの贈り物のように感じられるのかもしれない。梢さんの父親は30代で、母親は90代で亡くなられた。偶然にも月命日は同じ13日。どちらも金曜日だったそうだ。〈若き母父の日記にゐてぬくし〉は梢さんの句集『白い靴』から引いた。
 「盆栽に蓑虫のゐて貰はれ来」政江さんの句。知人からいただいた盆栽。よくよく眺めていると、蓑虫がぶら下がっているではないか。それだけのことなのだが、この句は盆栽ではなく、蓑虫が立派な主人公になっているところに愛嬌が感じられる。「老い猫の大欠伸して小六月」陽子さんの句。長年一緒に暮らしている猫だろうか。日の当たる縁側で昼寝をしていたと思ったら、何やら大きな欠伸をしている。これから散歩にでも出かけるところか。「小六月」は陰暦10月の異称。立冬を過ぎてからのまだ暖かいのどかなひととき。作者は富山県滑川市在住。(潔)

艸句会報:若草(令和2年5月)

若草通信句会
兼題「立夏、夏に入る」

高点2句
折れさうな日々を明るく矢車草    山本  潔
炒飯の音の弾ける立夏かな      飯田 誠子

花生けに水なみなみと立夏かな    飯田 誠子
万緑や生きてゐるのは素晴らしい   松本ゆうき
道端に咲くかたばみの気迫かな    市原 久義
柚の花や日々の暮しの中の幸     針谷 栄子
寂しがり屋の沙緻句碑の空青嵐    石田 政江
ラジオからラジオ体操姫辛夷     山本  潔
貼り変はる駅のポスター夏を呼ぶ   安住 正子
若葉して人のぬくもり恋ふばかり   沢渡  梢
泡が泡生む初夏のコカコーラ     坪井 信子
酸っぱさはこうでなくっちゃ夏蜜柑  新井 洋子

(清記順)

【一口鑑賞】炒飯の音の弾ける立夏かな」誠子さんの句。炒飯は家庭料理としてもポピュラーなメニュー。残りご飯と卵だけでもさっと炒めて美味しく食べられる。焼豚やエビ、カニなどがあれば上等だ。立夏の日にどんな炒飯を作ったのだろう。ご飯を炒める軽快な音が夏に入った気分を明るくさせる。「柚の花や日々の暮しの中の幸」栄子さんの句。コロナ禍で生活環境が変化する中、身の回りの小さな幸せに目を向けて詠んだ一句。「柚の花」との取り合わせが効いている。柚は初夏に香り高い白い花をつける。
若葉して人のぬくもり恋ふばかり」梢さんの句。若葉が眩しければ眩しいほど、人のぬくもりが恋しい!自粛を強いられる日々の気持ちを素直に詠んでいる。「道端に咲くかたばみの気迫かな」久義さんの句。酢漿(かたばみ)は庭や道路、公園など至るところに生える。葉はクローバーに似ており、5月頃から黄色い5弁の花をつける。花言葉は「輝く心」。この句は、道端の酢漿に自らの人生をなぞらえて詠んだのだろう。下五の「気迫かな」から生きることへの強い思いが伝わってくる。(潔)

花暦句会報:連雀(令和元年5月15日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「窓」

高点5句
ピアノ教室窓をふたえに棕櫚の花   加藤 弥子
短夜のひとりの生へ窓白む      安住 正子
浅草が揺れ神田が揺るる祭笛     安住 正子
夕薄暑かつて豆腐屋呼びし窓     岡崎由美子
花水木伊予に白寿の母祝ふ      中島 節子

冷奴何もせぬまま日の暮れて     岡崎由美子
上州の山を背ラに麦青し       田崎 悦子
母の日や子のきて磨く窓硝子     加藤 弥子
柿若葉八十路の胸を張りにけり    春川 園子
女客多きデパート夏来る       中島 節子
草の香の下に水音青葉闇       坪井 信子
夏きざす高窓の月ほの赤き      飯田 誠子
池の面の光を切りて蛇渡る      松成 英子
碑に眠る学徒らの名や薔薇赤し    矢野くにこ
新緑や方丈の窓開けられて      進藤 龍子
昇降機の小窓越しなる青嵐      向田 紀子
青嵐の虜となれり大欅        束田 央枝
ありがとうおかげさまです八十路首夏 横山 靖子
一と風に千の藤房応へけり      安住 正子

(清記順)

一口鑑賞夕薄暑かつて豆腐屋呼びし窓」〜由美子さんの句。昭和の頃の懐かしい光景である。夕暮れ時、豆腐屋が自転車でラッパを吹きながらやってくる。その音は「トーフー」と聞こえた。家の前を少し通り過ぎるくらいのタイミングで窓を開け、「お豆腐屋さ〜ん」と呼ぶと、待ってましたとばかりに止まる自転車…。作者は、今もある一つの窓を見てこんな記憶を呼び覚ましたのだろう。豆腐屋は1年中、売りに来ていたのかもしれないが、初夏の夕暮れが最も合う。「池の面の光を切りて蛇渡る」〜英子さんの句。夜の池だろうか。街灯の光か、あるいは月の光が映っている水面を蛇が横切ったのである。見ていた作者もハッとしたに違いない。「光を切りて」はまさに実感だろう。俳句では、眼前の一瞬の景を見逃さないことが大事だ。(潔)

花暦句会報:若草(令和元年5月11日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「筍」、席題「由」

高点3句
竹の子をざつくばらんに煮てひとり   山本  潔
筍を抱く獣の仔のやうに        市原 久義
おいしいおすえとたかんなのつぶやいて 坪井 信子

江戸からの由来ある坂花は葉に     沢渡  梢
傘雨忌や工事長引く神田川       岡戸 良一
雨上がり今朝は令和の新樹光      市原 久義
紫を解いて葡萄の芽吹きけり      石田 政江
黒南風や鴉が襲ふ由比ヶ浜       山本  潔
なによりの友の笑顔や若葉風      加藤 弥子
今年竹一本立ちに手を出さず      飯田 誠子
これやこの筍御膳頂きぬ        廣田 健二
カーネーション嫁との距離のあと一歩  新井 洋子
河童らの好きな夏場所来たりけり    坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞筍を抱く獣の仔のやうに」〜久義さんの句。筍は初夏の味わいとして格別なものがある。筍ごはんはもちろんのこと、若芽と炊き合わせた若竹煮、土佐煮、天ぷらなど、いろいろ楽しめる。この句はそんな筍を「獣の仔」に見立てたところが面白い。確かに、皮の色や土がまだ付いている筍は得体の知れない珍獣のように見える。作者によれば、「筍の湿り気や土の香、重さ、手触りなどを思い浮かべながら形容した」という。この日は「持ち帰る筍赤子抱くやうに」(新井洋子)との句もあったが、「獣の仔」の方に人気が集まった。「紫を解いて葡萄の芽吹きけり」〜政江さんの句。葡萄は4月下旬ごろから芽吹き始める。芽の先端は綺麗な紫色をしていて、それがほぐれるとどんどん伸びて枝になり、やがて房を付ける。近所に葡萄園でもない限り、我々が芽吹きを目にする機会はなかなかない。作者は、自宅に葡萄棚を作り、その生長を日頃からよく観察しているのだろう。その芽吹きの美しさに感動した気持ちを込めた一句。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年9月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「食」

高点2句
飽食の芥の嵩や鵙猛る         加藤 弥子
八月果つよく水呑んでよく食つて    坪井 信子

雷雨去り町生きかへる夕餉どき     田崎 悦子
羅漢さまの笑みや怒りや竹の春     春川 園子
雲海の無音の怒涛村を吞む       横山 靖子
爽やかにランチに酌めるアペリチフ   向田 紀子
釣舟草咲くや水音引き寄せて      加藤 弥子
秋うらら嬰授かりし報せ受く      進藤 龍子
机上まで秋冷いたる亡夫の部屋     束田 央枝
塩むすび旨し花火の桟敷席       松成 英子
許されよ野の花手折り食卓に      中島 節子
湯の町の朝湯戻りや花木槿       田村 君枝
露草の瑠璃耀へり通り雨        飯田 誠子
空き缶の音をころがす芋嵐       坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞八月果つよく水呑んでよく食つて」〜信子さんの句。中七、下五の言い回しが見事に決まっている。今年の夏は異常な暑さに見舞われた。その暑さのことは何も言わずに、よく水を呑み、よく食べたという事実を淡々と連ねるだけで十分に説得力を生んでいる。こんな詠み方もあるのかと感心する。上五に据えた「八月果つ」が実によく利いている。「羅漢さまの笑みや怒りや竹の春」〜園子さんの句。「羅漢」は「阿羅漢」の略。仏教において煩悩を振り払い、最高の悟りを開いた聖者のことだ。最近では、江戸時代中期の絵師、伊藤若冲が下絵を描いた「五百羅漢」が人気を集めている。若冲の羅漢かどうかはともかくとして、この句は「羅漢さま」と親しみを込め、その表情に見入っている。自然災害が続く日本の現在を憂いつつ、まるで救いを求めているかのように。この句も季語「竹の春」が利いている。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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