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艸句会報:若草(令和3年1月)

若草通信句会
兼題「信」

高点1句
毛糸編む編めば睡魔の来てすわる   飯田 誠子

初釣りの魚信定かに竿の先      岡戸 林風
寒の雨路面に滲む赤信号       沢渡  梢
羽子高く突いて未来を見に行かむ   山本  潔
朝の日のとびつく信濃冬林檎     飯田 誠子
降りしきる雪の隠せる信号機     安住 正子
白障子碁笥の木目のきはやかに    新井 洋子
本当は森で眠つてゐたき熊      市原 久義
病よき夫と炬燵に猪口ふたつ     石田 政江
息詰めて雪の深さを信じけり     坪井 信子
言ふならば小原庄助三が日      松本ゆうき
神在す立山三山初景色        吉﨑 陽子
手締めする事もかなはず去年今年   新井 紀夫
耳鳴りの幾万匹の寒夜かな      針谷 栄子

(清記順)

【一口鑑賞】1月7日に緊急事態宣言が再発令されたことに伴い、9日に予定していた若草句会はF A Xによる通信句会となった。そんな中で最も人気を集めたのが誠子さんの句。「毛糸編む編めば睡魔の来てすわる」。冬の季語「毛糸編む」を上五に置きながら、居眠りをしている作者自身をコミカルに詠んでいる。中七、下五の畳みかけるような措辞が心地よく、ユーモアにあふれている。
 「本当は森で眠つてゐたき熊」久義さんの句。「熊」が冬の季語。冬は山奥の洞穴に籠るが、昨年後半から人里で熊の目撃情報が相次いでいる。団栗が不作で餌を求めてやってくるらしい。また、コロナ禍の影響で山歩きをする人が増えて熊に襲われるケースもあるという。この句は、そんな事情を踏まえているのだろう。地球の気候変動は動植物にも変化をもたらす。熊への思いやりを感じさせる一句。
 「神在す立山三山初景色」陽子さんの句。「立山」は北アルプス北部の山の総称で、雄山(おやま)、大汝山(おおなんじやま)、富士ノ折立(ふじのおりたて)からなる。これに南の浄土山、北の別山(べっさん)を合わせたのが「立山三山」。北陸の広大な山岳地帯は「神在す」領域と言っていい。富山県に暮らす作者。ここの初景色にコロナ禍の終息を祈ったに違いない。(潔)

艸句会報:連雀(令和3年1月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「日」

高点1句
ゆるゆると老いて一人の寝正月    坪井 信子

東京のまさをな空の三が日      飯田 誠子
凍空や音したたかに基地のヘリ    束田 央枝
牛日のミルクにひたす胡桃パン    山本  潔
凍星のひとつ瞬く小窓かな      坪井 信子
俳諧は生き甲斐なりし初句会     安住 正子
寒鴉一声夕日落ちにけり       松成 英子
来し方を想ふ窓辺や冬夕焼      春川 園子
あれこれとレシピ片手に小晦日    中島 節子

 明恵上人に
あかあかやあかあかあかや初日の出  松本ゆうき
裏道の古き自販機冬の草       岡崎由美子
炎立つ富士の稜線寒夕焼       向田 紀子

 サントリーホール
マスクして歌う第九を聴くマスク   横山 靖子
(清記順)

 【一口鑑賞】昨年後半からの新型コロナウイルス第3波による感染拡大が止まらない中、この日が初句会となった。「ゆるゆると老いて一人の寝正月」信子さんの句。昨年夏にご主人を亡くされた作者。外出自粛も加わり、三が日はほとんど一人で過ごしたのだろう。寂しさを感じながらも「寝正月」というささやかな時が自分自身を見つめ直す機会になったのかもしれない。「ゆるゆると老いて」は決して弱音を吐くまいとする作者の強がりのように思えてくる。
 「寒鴉一声夕日落ちにけり」英子さんの句。冬は夕暮れどきでも烏をよく見かける。フェンスや塀の上などでじっと人間をにらんでいるのは、食べ物を求めているからだろう。そんな烏に作者は親しみを感じて近づこうとしたのかもしれない。しかし、その一瞬の動きの中で烏は一声を放って飛び去り、あっという間に日も暮れたのである。寒烏と人間の距離を無駄なく描いた一句。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年12月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「数へ日」

高点2句
葉ボタンの渦に記憶の周波数     並木 幸子
綿虫の漂ふ黙や樹々の黙       貝塚 光子

数へ日のあれもこれもが繰り越しに  三宅のり子
数へ日や老には老の役目あり     髙橋 郁子
数へ日の居場所となりし句座一つ   岡戸 林風
文机の一灯冴ゆる夜の句集      岡崎由美子
里山の落葉溜りは子らの基地     貝塚 光子
数へ日やテディベアを繕ひて     川原 美春
冬至風呂労はりほぐす膝小僧     内藤和香子
来世への手形のつもり古日記     山本  潔
冬の雨奥に遺影の写真館       並木 幸子
家計簿の余白にふはり木の葉髪    工藤 綾子
少しづつ馴染む晩学石蕗の花     福岡 弘子
一年の憂さ吹きとばす大くさめ    松本ゆうき
湖畔の朝馬車来て御者の息白し    長澤 充子
逝く年や五臓に染みる故郷の酒    大浦 弘子

(清記順)

【一口鑑賞】葉ボタンの渦に記憶の周波数」幸子さんの句。この日が2020年の句座納め。掲句を採った4人中、3人が特選でいずれも「『記憶の周波数』という表現に斬新さを感じた」という。一方で「句意が分かりにくい」との意見も出た。作者によれば、今年のいろいろなことが渦を巻いたような葉牡丹の形に重なり合って「記憶の周波数」という言葉になった。例えば「葉牡丹や記憶の渦の周波数」とでも直す余地はあるが、まずは作者の感覚を大事にして原句のままとした。「一人ひとりが詩情を培い、オリジナリティーを追求する」ことが「艸」の出発点。新しい年もこの気持ちを大事にしていきたい。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年12月)

東陽通信句会

高点2句
山茶花やキッチンカーに招き猫    新井 洋子
ふところに列車走らせ山眠る     野村えつ子

冬木の芽子ら駆けてゐる芝の上    貝塚 光子
点りても寂しき赫よ青木の実     向田 紀子
一陽来復光のとどく机・椅子     堤 やすこ
一碧の沖に船置く枯尾花       中島 節子
眉引きしのみのこもり居冬ざるる   安住 正子
子らの声散つて明るくなる枯野    岡崎由美子
極月の声に気合や消防士       野村えつ子
裸木の並木は空を支へをり      新井 洋子
知りつくす日本の都ゆりかもめ    岡戸 林風
うたた寝と読書と雪見障子かな    山本  潔
遠富士や青首大根肩並べ       斎田 文子
走り根の滑る小径や冬木立      長澤 充子
江戸弁の売り子の声や年の市     飯田 誠子
日短か雀色時ひとを恋ふ       松本ゆうき
日記買ふ「残日録」と銘打ちて    中川 照子

(清記順)

【一口鑑賞】ふところに列車走らせ山眠る」えつ子さんの句。ローカル線の旅だろうか。寒々しい中にあっても、冬日の当たる雑木山の景に何だかほっとさせられる。「山眠る」は北宋の画家・郭熙(かくき)の画論の一節「冬山惨憺として眠るが如し」に基づいた季語。眠りの中にある雑木山が列車の音をぼんやりと聴いている感じだ。冬の山を擬人化して的確に詠んでいる。
 「一碧の沖に船置く枯尾花」節子さんの句。小高い丘に立つ作者。沖に広がる碧い海を俯瞰している。キラキラ光る水平線には船が動いているようでもあり、泊まっているようでもあり。振り返れば、近くには枯尾花の野が広がっている。まるで一枚の絵のような一句。「遠富士や青首大根肩並べ」文子さんの句はよく目にする写真のようだ。青首大根の並ぶ畑をアップにして、遠くに富士山が小さく写っている。
 「日記買ふ『残日録』と銘打ちて」照子さんの句。何事にも細やかな作者のこことだから、かつては夢を綴る「夢日記」だったかもしれない。今は「残実録」と名付けたが、決して開き直ったわけではない。年の功で人生を達観するようになった証だろう。これからも「残実録」を長い長い俳句の記録にしてほしい。(潔)

艸句会報:かつしか(令和2年12月20日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「師走」

高点1句
侘助が満開ですねお義父さん     山田 有子

七草の籠を買ひ来る師走かな     山田 有子
居酒屋の手書きのメニュー年暮るる  三尾 宣子
笑ひ皺いつしか消えて十二月     小野寺 翠
健診の縮みし背丈干大根       霜田美智子
柚子風呂や孫は大人に「なにぬねの」 中山 光代
冬枯や野仏の顔薄れをり       近藤 文子
師走空上野浅草一万歩        片岡このみ
目覚しの三度に覚悟の冬の朝     笛木千恵子
喪中とてやるべき事はやる師走    五十嵐愛子
愛想良き人型ロボット街師走     新井 洋子
振舞の酒も自粛の夜警かな      新井 紀夫
ブティックの夜のウインドに雪女   山本  潔
水鳥や湖畔の宿のログハウス     佐治 彰子
ありし日の母と仕立てし蒲団かな   伊藤 けい

(清記順)

【一口鑑賞】侘助が満開ですねお義父さん」有子さんの句。「侘助」はツバキ科の樹木。椿に似た白や紅の小ぶりの花をつける。豊臣秀吉が朝鮮出兵した際に「わびすけ」という人物が持ち帰ったという説もあるが定かではない。寒くなり侘助が庭に咲くたびに義父のことが懐かしくなる作者。義父が大事に育てていたのだろう。死者への「満開ですね」という呼び掛けに親しみが込められている。
 「笑ひ皺いつしか消えて十二月」翠さんの句。「笑ひ皺」は文字どおり笑ったときにできる皺。若い頃は気にならなかったが、年齢とともに特に女性には気になるものらしい。しかし、師走の忙しいなかにあっては「笑ひ皺」を作る余裕もないということだろう。この句は「十二月」の慌ただしさを軽妙に伝えている。
 「振舞の酒も自粛の夜警かな」紀夫さんの句。昨今、夜警を行うところは少ないかもしれない。昔は「火の用心!」という声の後に「カチ、カチ」という拍子木を打つ音が聞こえてきたものだ。作者の住む亀有界隈では毎年行われているというが、今年は恒例の振舞酒が自粛に。これを楽しみに夜警に参加していた人もいただろう。コロナ禍の影響はこんなところにも表れている。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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