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句会報:東陽(令和2年8月)

東陽通信句会

高点2句
満開といふ閑けさや古代蓮    野村えつ子
流れ星老いの願ひは切実ぞ    貝塚 光子

団栗やてにをはの無き稚ことば  中島 節子
校庭の影なき真昼夾竹桃     野村えつ子
秋暑し為すこともなく籠りをり  堤 やすこ
露草に触れてこぼるる一雫    長澤 充子
秋暑し静止画像の安倍総理    新井 洋子
戦ありき六日九日の夾竹桃    山本  潔
木槿咲き路地のうどん屋廃業す  岡崎由美子
旧盆や捨て人のごと東京に    松本ゆうき
ラムネ飲み話し十年さかのぼる  安住 正子
図らずも息子の労りや涼新た   貝塚 光子
風に髪あづく晩夏の夕茜     斎田 文子
山門をよぎる稲妻猫猛る     飯田 誠子
盆踊口説きに入りて闇深し    向田 紀子
落蟬の腹吹かれゐる木の根みち  中川 照子

(清記順)

【一口鑑賞】満開といふ閑けさや古代蓮」えつ子さんの句。古代蓮は縄文時代の地層から発掘された蓮の実を発芽させることで現代に蘇った花。研究した植物学者にちなみ「大賀ハス」とも呼ばれる。ピンクの大輪の花は静謐で歴史のロマンを感じさせる。この句は、そんな古代蓮が咲きそろった景を目の当たりにした作者の感動が素直に伝わってくる。息を呑む美しさに声も出なかったのだろう。それはまさに「満開といふ閑けさ」だったのである。「校庭の影なき真昼夾竹桃」もえつ子さんの句。目の前にあるのは校庭と夾竹桃のみ。読み手によっては、盛夏の静まりかえった校庭が、いきなり広島、長崎の原爆の映像に切り替わるかもしれない。「夾竹桃」は焦土にいち早く咲いた花。今年は戦後75年。終戦と夾竹桃の結び付きは強い。
 「秋暑し為すこともなく籠りをり」やすこさんの句。今年は立秋後も暑い日が続いている。東京の猛暑日は8月としては観測史上最多となった。残暑の厳しさに加え、コロナ禍も続いており、出かけることもままならない。こんな時は家に籠り、静かに暮らすしかないと割り切っている。
 「秋暑し静止画像の安倍総理」洋子さんの句。安倍総理は8月28日、体調悪化を理由に辞任を表明した。この句はそれ以前に投句されており、「静止画像」はまだ騒ぎになる以前のもの。とはいえ、重病説が駆けめぐるなど兆候はあった。作者も何らかの異変を感じ取っていたのだろう。一体、どんな画像だったのか読み手は興味をそそられる。見るからに覇気のない総理の表情がそこにあったに違いない。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年8月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
年寄の夢たわいなし星の恋    松本ゆうき
便箋とペンのみ処暑の文机    岡崎由美子

藍ふかき朝顔咲かせ逝かれけり  岡崎由美子
窓口の透明シート秋暑し     岡戸 林風
引いた字をまた引き直す鳳仙花  松本ゆうき
燻りて何度も点す魂送り     福岡 弘子
銅山を清め渡良瀬河鹿笛     大浦 弘子
新涼やメールで届く旅プラン   長澤 充子
新しき包丁試す今朝の秋     髙橋 郁子
朝蟬を捕らむと猫の駆けのぼる  貝塚 光子
老眼鏡外し夜長の眼を仕舞ふ   工藤 綾子

(清記順)

【一口鑑賞】年寄の夢たわいなし星の恋」ゆうきさんの句。陰暦7月7日の夜、牽牛星(鷲座のアルタイル)と織女星(琴座のヴェガ)が天の川を渡って年に一度の逢瀬を楽しむというのが「七夕」。「星の恋」はその副季語。何とロマンチックな言葉だろう。それを好んで使うところがこの人らしい。もはや老年の域に入ったことを意識しながらも夢だけは持ち続けていたい。たとえそれがたわいない願望であっても…。そう自分に言い聞かせているような一句。
 「便箋とペンのみ処暑の文机」由美子さんの句。「処暑」は二十四節気の一つで、暑さが一段落する節目となる。立秋から15日目。今年は8月23日だった。この句は、そんな日の文机を描写することで、「処暑」を迎える作者の気持ちが巧みに言い表されている。「便箋とペンのみ」というシンプルな映像だが、読み手の目にその家の佇まいまで見えてきそうだ。
 「老眼鏡外し夜長の眼を仕舞ふ」綾子さんの句。秋の夜は長い。本を読んだり、手紙を書いたりして過ごすことが多くなる。そんなときに、作者はふと眼の疲れを感じたのだろう。「今夜はここまで」と眼鏡を外した瞬間に「眼を仕舞ふ」という言葉が降りてきたのかもしれない。(潔)

艸句会報:若草(令和2年8月8日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「片蔭」

高点1句
行合ひの句座に清しき浴衣かな    新井 洋子

片かげり死ぬの生きるのなかつたね  松本ゆうき
秋近し住宅街の葬斎場        沢渡  梢
海の愛まとふ天草干されをり     吉﨑 陽子
すつぽんと読めても書けぬ夏暖簾   新井 紀夫
黄菅まだ色をほどかず尾瀬の原    安住 正子
片蔭を行けば古書肆の匂ふ街     岡戸 林風
蚯蚓いい奴土の手入れに明け暮れて  坪井 信子
「この先に蛇がゐます」と言はれても 市原 久義
ゆるく着て「艸」を寿ぐ単物     石田 政江
少年の指すり抜けて青蜥蜴      山本  潔
秋立つや鮮魚市場の新メニュー    飯田 誠子
月見草目より笑ひし母とゐて     新井 洋子
サバ缶のちゃちゃっとレシピ終戦日  針谷 栄子
石鹸をひとつ下ろして今朝の秋    隣安

(清記順)

【一口鑑賞】行合ひの句座に清しき浴衣かな」洋子さんの句。東京は8月1日に梅雨明けしてから、ずっと暑い日が続いている。この日の句会に涼しそうな浴衣姿で現れた人がいた。作者は早速、それを一句に詠んだ。俳句は即興、挨拶、滑稽が大事な要素。コロナ禍の今、句会が開かれること自体が貴重であり、そんな状況の中にあっても即吟を忘れない作者の精神に敬意を表したい。「ゆるく着て『艸』を寿ぐ単物」政江さんの句。7月の艸創刊祝いに、沙緻師の形見の単を着て登場した作者。やや大きめの着物をゆったりと着こなし、艸創刊へのお祝いの気持ちを示した。あの日の自分自身をスケッチした一句。今日の句会に涼しげな浴衣姿でやってきたのも政江さん。
 「蚯蚓いい奴土の手入れに明け暮れて」信子さんの句。「蚯蚓」が夏の季語。土を食べ、有機物や微生物などを消化吸収し排泄することで、土壌を改良してくれる。そんな蚯蚓を作者は「いい奴」と呼ぶ。生き物への慈愛に満ちた一句。「『この先に蛇がゐます』と言はれても」久義さんの一句。こちらは蛇を詠んだ句。目の前にあるのは蛇への注意を呼びかける看板だけだが、周囲の草むらに蛇がいそうな雰囲気が漂ってくる。この句は目に見えなくても、すぐ近くに潜んでいる蛇を見定めている。ゾクっとさせられる一句。
 「石鹸をひとつ下ろして今朝の秋」隣安さんの一句。久々にゲスト参加した作者。「今朝の秋」は「立秋」の副季語。どことなく秋の気配を感じる朝に新しく下ろす石鹸から何とも爽やかな気分が伝わってくる。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年8月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)

高点2句
うち集ひ「艸」を祝せり深き夏    中島 節子
安全靴の足放り出し三尺寝      岡崎由美子

白く咲き紅く消えゆく酔芙蓉     矢野くにこ
新内ながし二階の膳の副となり    束田 央枝
向日葵を活けるゴッホの絵のやうに  山本  潔
梅雨明けの空の青さよ恙なし     進藤 龍子

 三千院
阿弥陀仏の眼差し受けて苔の花    横山 靖子
関取の二重瞼や玉の汗        向田 紀子
梅雨明けの街青年のエコバッグ    岡崎由美子
碑の百の沈黙蟻の列         坪井 信子
かなかなやスキのある人スキな人   松本ゆうき
水打つて夜へと動く神楽坂      安住 正子
鈴の束腰に跳人の高校生       松成 英子
みんみんや人を見送る駅広場     中島 節子
声明と競ふがごとし蟬時雨      飯田 誠子

(清記順)

【一口鑑賞】うち集ひ『艸』を祝せり深き夏」節子さんの句。艸の第1回総会・創刊を祝う会は7月18日に行われた。ウイルス感染に対する政府の非常事態宣言解除後、再び東京中心に感染が広がる状況の中にあったが、感染予防対策を徹底し、恙なく終えることができた。うち集った人達の意気込みが伝わってくる。作者の思いは「深き夏」に集約されている。「安全靴の足放り出し三尺寝」由美子さんの句。ビルの工事現場だろうか。職人が足を放り出して昼寝をしている。ふと目に止まったのは頑丈そうな靴。何かにつまづいたり、物が落ちたりしたときに、足を守るための「安全靴」だ。常に俳句の材料を探している作者ならではの一句。
阿弥陀仏の眼差し受けて苔の花」靖子さんの句。コロナ禍の前は外国人旅行客が溢れていた京都も、今はひっそりとしているという。本当の意味での京都の良さが楽しめるようになったのかもしれない。掲句は三千院での一句。庭一面に広がる「苔の花」を見ながら、ふと感じた視線は往生極楽院の阿弥陀如来のものだろうか。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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