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艸句会報:若草(令和3年6月12日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「蛇の衣」

高点1句
お持たせのどら焼なれば古茶を濃く  市原 久義

椅子三つ余りしままに夏来る     吉﨑 陽子
ががんぼになりて道後の湯に浮かぶ  松本ゆうき
暑き日の真昼やカメレオンの黙    坪井 信子
夏草やインコの墓の当たり棒     沢渡  梢
蛇の衣寺の大樹の真暗闇       新井 紀夫
神木に向けぬ尾の先蛇の衣      針谷 栄子
新茶汲む古りし湯呑の箆の痕     市原 久義
蟻地獄音なく砂の動きけり      安住 正子
小梅採る夕日の中に夫のゐて     石田 政江
火蛾闇を食ひちぎらむと夜の市場   山本  潔
青嵐空の混み合ふ副都心       新井 洋子
蟻塚や賢く生きること難し      飯田 誠子
天上の友と語らん燕子花       岡戸 林風


【一口鑑賞】お持たせのどら焼なれば古茶を濃く」久義さんの句。どら焼は日本人のポピュラーなお菓子である。人気アニメの主人公、ドラえもんの大好物としても知られる。この句は、お客さんがお土産に持ってきてくれたどら焼を早速いただこうというのだが、「古茶を濃く」に作者の気持ちが感じられる。「古茶」も夏の季語。気に入っているお茶と好物のどら焼を前に気心の知れた来客との会話が弾む。「夏草やインコの墓の当たり棒」梢さんの句。子どもの頃の思い出だろうか。かわいがっていたインコが死んでしまい庭に埋めたのである。アイスキャンディーの「当たり」のマークが付いた棒を立ててお墓の目印にした。少女にとっては宝物のような「当たり棒」だったが、インコを弔う純真な心を代弁しているようだ。「夏草や」の切れが場面を浮き立たせる。(潔)

艸句会報:連雀(令和3年6月)

連雀通信句会

高点2句
十薬やお薬師様の処方箋       飯田 誠子
北上川の蛇行緩やか夏つばめ     安住 正子

山法師命つないで今年また      春川 園子
地球儀のグリーンランドを射る西日  坪井 信子
遠郭公誰を呼ぶのかけふもまた    束田 央枝
夜濯のマスクを吊す鴨居かな     岡崎由美子
浄瑠璃の人形の泣く虎が雨      松成 英子
梅雨入りや湯煙しみる上別府     渕野 宏子
畳屋の片付いてゐる走り梅雨     安住 正子
葉桜を愛でし人亡き石灯籠      横山 靖子
カヌー漕ぐ子らのオールの儘ならず  中島 節子
空蟬に草の匂ひのありにけり     飯田 誠子
梅雨曇はらから遠くなりしかな    進藤 龍子
辰雄忌の白薔薇に佇つ少女かな    山本  潔
後悔やそつぽ向きたる供花の百合   向田 紀子

(清記順)

【一口鑑賞】地球儀のグリーンランドを射る西日」信子さんの句。ご主人の仕事で若い頃には西アフリカで暮らしていた作者。一人暮らしとなったいまも夢は世界を駆け巡るのだろう。コロナ禍で引きこもりの生活を強いられるなか、地球儀はさまざまな想像を膨らませてくれる。この句は、北極圏を眺めていたときにふと現実に引き戻されたのかもしれない。窓から差し込む西日がグリーンランドを照らしていたのだ。それをすかさず一句にした。「カヌー漕ぐ子らのオールの儘ならず」節子さんの句。子どもたちがカヌーの教習を受けているのだろうか。好き勝手にオールを動かす子もいてカヌーがぶつかったり、沈みそうになったりしているのかもしれない。そんな様子をハラハラ見ている作者。「儘ならず」に子どもたちへの優しいまなざしが感じられる。(潔)

艸句会報:船橋(令和3年5月29日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「茉莉花、ジャスミン」

高点2句
昼顔の「ゴミすてるな」に巻きつきぬ  矢島 捷幸
茉莉花や白磁の茶器に紅のあと     山本 吉徳

窓のなき市場食堂穴子めし       岡崎由美子
路地裏のダンス教室花石榴       沢渡  梢
暴れたる鯰さばきの出刃研ぎぬ     小杉 邦男
けふ今を息して生きて樟若葉      山本 吉徳
緑廊の風をゆたかに茉莉花は      岡戸 林風
万緑へ足す猫の目のひすゐ色      針谷 栄子
古着とて捨てがたきもの更衣      飯塚 とよ
釣人に語りかけたる牛蛙        並木 幸子
テラス席にジャスミンティーを小指立て 三宅のり子
渋滞や茅花流しの分離帯        市原 久義
むらさきの小雨にけぶる花あやめ    矢島 捷幸
文の友逝きてポストに青葉雨      川原 美春
石垣に「菅公」の詩や夏蛙       中川 照子
駄菓子にて語る人生多佳子の忌     山本  潔

(清記順)

【一口鑑賞】昼顔の『ゴミすてるな』に巻きつきぬ」捷幸(かつゆき)さんの句。この日、ゲスト参加の作者。句歴2年余りと言いながらも、いきなり高点句に輝いた。朝顔や夕顔に比べると、どこか存在感の薄い昼顔だが、ガードレールや金網などに絡みついて薄いピンクや白の可憐な花を咲かせている。この句は、看板にしっかり巻きついているところを見逃さなかった。何でも詠んでやろう!という気持ちが表れている一句。「窓のなき市場食堂穴子めし」由美子さんの句。時間のある人は午前中にJ R船橋駅から徒歩約15分の船橋市地方卸売市場までの吟行を楽しんだ。市場に何軒かある食堂に分かれて昼食にしたが、そこでもすかさず詠むのが吟行の楽しいところ。「窓のなき」という軽い発見に、「穴子めし」を合わせて俳味のある句に仕上がった。(潔)

艸句会報:すみだ(令和3年5月)

すみだ通信句会
兼題「青葉」

高点2句
渓谷をトロッコ列車青葉風      長澤 充子
鈴蘭は小さき風の拠りどころ     岡戸 林風

山裾に棚田広ごる青葉風       内藤和香子
溪深く青葉の闇を濃くしたり     岡戸 林風
なに見るやはつかに笑ふ昼寝の子   松本ゆうき
青葉寒橅の林に水の音        髙橋 郁子
えごの花散るや雨戸を閉める音    山本  潔
地を蹴つて進む二輪車若葉風     岡崎由美子
木曽路行く青葉の谷よ舟唄よ     大浦 弘子
「多忙です」と言ひつつ作る白玉を  貝塚 光子
逆上がりに挑戦の子や若葉風     長澤 充子
兄弟は良きライバルや柏餅      福岡 弘子
田を均す漣美しき代田かな      工藤 綾子
門朽ちし関所の跡や月見草      桑原さかえ

(清記順)

【一口鑑賞】渓谷をトロッコ列車青葉風」充子さんの句。兼題「青葉」に合わせ、かつての旅で乗ったトロッコ列車を思い出しながら詠んだのだろう。余計なことは言わず、シンプルな詠みぶりに好感が持てる。ただ、下五は「青嵐」「若葉風」でも成り立ちそうだ。「青葉風」を「青葉」の傍題にしている歳時記は少ない。いまひとつ季語としての働きが弱いからではないか。「溪深く青葉の闇を濃くしたり」林風さんの句。この「青葉」は新緑のころに比べて夏もいくらか深まったことを感じさせる。渓の深さや闇の濃さを言うことで「青葉」を心象的に捉えているからだろう。いつ見ても緑は美しいが、季節のうつろいの中で微妙な変化を感じ取ることが俳句を詠む醍醐味でもある。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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