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艸句会報:かつしか(令和3年9月26日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「鳥渡る」

高点6句
長き夜の本に足したる付箋かな    平川 武子
稔り田を抱き浅間山のうす煙     佐治 彰子
偏屈の口を割らない柘榴の実     小野寺 翠
脱北の人の話や鳥渡る        山田 有子
満月の夜の家路へと至福かな     高橋美智子
つんと咲く遊女の墓碑の曼珠沙華   笛木千恵子

隕石のかけらを探す花野かな     山本  潔
竹箸で掬ふ嵯峨野の新豆腐      伊藤 けい
初紅葉遊覧船の着く岸辺       三尾 宣子
北海の匂ひ運び来渡り鳥       西川 芳子
水澄むや庵主板書の立子の句     笛木千恵子
鳥渡るわが背に翼あらまほし     西村 文華
名物の団子を提げて秋彼岸      山田 有子
梨狩や掌に丸々と日の重み      新井 洋子
言の葉に迷ふ句作り秋の蝶      平川 武子
鳥渡る終の住処の定めなく      小野寺 翠
借りて読む句集の上に秋日落つ    千葉 静江
癒えてより早ひと年や菊日和     近藤 文子
みちのくの分水嶺や鳥渡る      五十嵐愛子
眉を引き来し方などと栗ごはん    中山 光代
敬老日四の五の吐かす半可通     新井 紀夫
実紫米寿の母は四姉妹        高橋美智子
古民家のオール電化や敬老日     霜田美智子
鷹渡る白樺峠の風つかみ       佐治 彰子

(清記順)

【一口鑑賞】稔り田を抱き浅間山(あさま)のうす煙」彰子さんの句。浅間山は長野県と群馬県の境にそびえる国内最大級の活火山。軽井沢の象徴でもあり、美しい山容は人々を魅了する。この句は、広大な黄金色の稲田の背景にうっすらと噴煙を上げている浅間山の風景が立ち上がる。上五から中七への句またがりがゆったりとしており、全体のリズムもいい。「脱北の人の話や鳥渡る」有子さんの句。兼題「鳥渡る」での一句。秋に日本に来る冬鳥になぞらえて、北朝鮮からの脱北者に発想を飛ばしたところがユニーク。テレビ番組で見た脱北者のことなのか、誰かに間接的に聞いた話なのかはわからないが、読み手は意表を突かれる。相次ぐミサイル発射などで国際社会への挑発を繰り返す北朝鮮。作者はその国の人々の暮らしに思いを馳せているのだろう。(潔)

艸句会報:東陽(令和3年9月)

東陽通信句会

高点2句
衣被老いて諍ふたねもなく      岡崎由美子
山小屋も宙に浮き出る星月夜     中川 照子

初さんま桶の冷水光らせて      岡崎由美子
爽やかに嫁と心が通じたる      斎田 文子
秋澄むや容あるもの美しく      堤 やすこ
暮れなづむ路地の片すみ夕化粧    岡戸 林風
栗抱く栗より巨き小栗鼠の目     中川 照子
歌ひつつ長寿体操野分晴       貝塚 光子
ぶらぶらと来てぶらぶらと生姜市   山本  潔
頂に秋雲をのせ利尻富士       長澤 充子
人ごゑのやさしくなりぬ白露かな   安住 正子
夕暮れの犬の散歩や白芙蓉      向田 紀子
電子辞書に鳥の声聴く秋日和     中島 節子
ワンマンの亡父のステッキ蚯蚓鳴く  新井 洋子
気がつけば地味な人生ちちろ鳴く   松本ゆうき
ささやきは五百羅漢か竹の春     飯田 誠子

(清記順)

【一口鑑賞】衣被老いて諍ふたねもなく」由美子さんの句。「衣被」は里芋の子芋を、皮を剥かずにそのまま茹でたもの。指先で衣を脱ぐように皮がつるりと剥ける。俳人には人気の高い季語と言っていい。この句は、具体的なことは何も言っていないが、家族や老いた兄弟姉妹との関係を詠んでいるように思える。「諍ふたねもなく」とは、互いに助け合ってうまくいっているということの証だろう。「爽やかに嫁と心が通じたる」文子さんの句は「嫁」との関係を詠んだ。読み手は想像力をかき立てられるが、実はたわい無いことで気が合っただけなのかもしれない。「爽やか」は秋の清々しさをいう季語で、主観的な意味合いが強い。この句は、大気が澄んで心身のさっぱりした感じと、お嫁さんと気持ちが通じた感覚を端的に重ね合わせたのではないか。(潔)

艸句会報:すみだ(令和3年9月22日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「貝」

高点2句
秋涛や耳に当てたる虚貝        岡戸 林風
焼貝の匂ふ浜辺や秋夕べ        貝塚 光子

秋暑し老境まさに知る鏡        福岡 弘子
ひとりゐの話し相手や種瓢       山本  潔
見上げては空を広げて松手入れ     工藤 綾子
サラダ付きランチつんつん貝割菜    岡崎由美子
母の忌の十六夜の月吾妻橋       貝塚 光子
不貞寝するベンチの猫や柳散る     大浦 弘子
澄む秋や船影消ゆる水平線       長澤 充子
「ジュテーム」と小貝ささめく月こよひ 松本ゆうき
蟷螂や祈るかたちを窓際に       岡戸 林風
道草も学びの一つ猫じやらし      内藤和香子

(清記順)

【一口鑑賞】秋涛や耳に当てたる虚貝」林風さんの句。人はどんなときに空の貝殻を耳に当てるのだろう。波音のように聴こえるのは貝殻と耳の隙間に入ってくるノイズらしい。この句は、上五の「秋涛や」によって人影のない寂しい海辺の情景が浮かび上がる。さらには下五に置いた「虚貝(うつせがい)」が虚しさを呼び起こす。貝殻から聴こえる波音に作者は己れの人生を重ね合わせているのかもしれない。詩的な一句。「不貞寝するベンチの猫や柳散る」大浦弘子さんの句。この句は野良猫が主人公。舞台は中秋の頃の公園のベンチ。黄ばみ始めた柳の葉が辺りに散っている。猫がふてくされているように見えるのは作者の気持ちが投影されているからだろう。あと1カ月もすれば野良猫に厳しい冬がやってくる。(潔)

艸句会報:若草(令和3年9月11日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「洋」

高点1句
間引菜の青より朝の始まりぬ     安住 正子

たをやかにありのまま生く秋うらら  沢渡  梢
師の好きな萩は一花を畑の垣     石田 政江
読み上げ算漏れくる塾や虫の夜    新井 紀夫
晩年はいつ始まるのきりぎりす    松本ゆうき
穂芒の解けて風筋変りたる      安住 正子
筑波嶺の男体女体月涼し       新井 洋子
梨噛めば嚼めば咬むほど水の音    山本  潔
痩身の秋刀魚へよくぞ此処までと      隣安
一回り園のふくらむ虫時雨      飯田 誠子
洋酒瓶一輪挿しとなる晩夏      吉﨑 陽子
猫バスの片道きつぷ花野駅      針谷 栄子
かなかなの強き響きに励まさる    岡戸 林風

  パラリンピック
日本の秋風を背にゴールイン     坪井 信子
未知なるを恐れもせずに飛蝗跳ぶ   市原 久義

(清記順)

【一口鑑賞】間引菜の青より朝の始まりぬ」正子さんの句。大根、蕪、小松菜などの菜類は多めに種を蒔き、苗が密生してきたら間引く。これが「間引菜」で秋の季語。味噌汁に入れたり、お浸しにしたりすると柔くて美味しい。この句は朝ごはんの準備をしながら、若々しい菜類の青さを目にする作者の姿が浮かんでくる。丈夫で台所に立てる幸せを噛み締めているのだろう。「痩身の秋刀魚へよくぞ此処までと」隣安さんの句。秋刀魚は秋の味覚の代表格だが、一昨年から深刻な不漁が続いている。海流の変化が原因とされ、今年も苦戦しているようだ。この句は、食卓に上った「痩身の秋刀魚」を目の前に思わずつぶやいた言葉なのだろう。食物への感謝を決して忘れない作者の人柄が表れた一句。(潔)

艸句会報:連雀(令和3年9月1日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「九」

さつきまで狂ひゐし灯蛾掃かれけり  坪井 信子
藤袴かるく吹かれて色淡き      矢野くにこ
秋声や波の模様の蜻蛉玉       山本  潔
総持寺の魚板のこだま今朝の秋    安住 正子
底紅の咲くアパートに孫娘      春川 園子
稲妻や音のせぬのも恐ろしき     松本ゆうき
きらめきに初秋の陰り別府湾     渕野 宏子
秋の水湛え水神祀らるる       進藤 龍子
長き夜やまた読む遠野物語      松成 英子
かなかなや檻のイグアナ眼閉ぢ    中島 節子
夕顔や灯りてよりの闇深く      飯田 誠子
戦没者慰霊碑暮色葉月尽       束田 央枝
友の訃や時いつくしむ夏の果     横山 靖子
九頭竜川に放つ灯籠流しかな     向田 紀子

(清記順)

【一口鑑賞】さつきまで狂ひゐし灯蛾掃かれけり」信子さんの句。夜になってコンビニかスーパーへ行ったのだろう。入口近くの誘蛾灯の周りを狂ったように飛ぶ蛾をちらと見た。それが帰る時にはもう掃かれていたのだ。さほど長い時間ではない。「あら、もう掃かれている」という驚きが一句になった。「灯蛾」への哀れみが感じられる。「稲妻や音のせぬのも恐ろしき」ゆうきさんの句。「稲妻」が秋の季語。遠くで光る雷で、夏の「雷鳴」や「落雷」のような激しい音は聞こえない。マンションの窓から眺める空中放電は神秘的でさえあるが、作者はふと「恐ろしき」と感じたのだ。いつ迫りくるかわからない怖さは、新型コロナウイルスにも通じるのではないか。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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